溶接におけるアークとは、電極と母材の間に発生する高温(約5,000~20,000℃)の放電現象のことだ。この放電が金属を溶融させて接合する熱源となる。

主要データ

  • アーク溶接受験者数(2022年):104,035人(日本溶接協会、延べ数)
  • 手溶接受験者数:33,486人(2022年、被覆アーク溶接等を含む)
  • 半自動溶接受験者数:43,694人(2022年、MAG/MIG溶接)

火花が飛ばない溶接で母材が割れた現場

鉄骨工場で新人の作業者が抵抗スポット溶接機を操作した際、加圧と通電は正しく行われて火花も飛ばず、一見すると問題なく作業は終わったように見えても、冷却後の検査では母材に割れが発生して不良品として扱われたため、原因は「アークが発生していなかった」ことではなく、その作業がそもそもアーク溶接ではなかった点にあると整理できる。

現場では「溶接=火花が飛ぶもの」という認識が根強い。だが、火花の正体はスパッタであり、アークそのものではない。逆に、アークを使わない抵抗溶接では火花は飛ばないことが多いにもかかわらず、母材同士を圧力と電流で接合する別の原理が働いているため、アークを使う溶接と使わない溶接を混同すると施工条件の判断を誤ることになる。

アークの物理的な正体と溶接への利用

アークは、電極と母材の間に数ミリから数十ミリの空間を設け、そこに電圧をかけたときに発生する持続的な放電現象であり、空気中の気体が電離してプラズマ状態になり、電流が流れ続けることで熱エネルギーが生じ、その熱によって金属が溶融する。温度は溶接法や電流値によって異なる。被覆アーク溶接では約5,000~6,000℃である。TIG溶接では局部的に20,000℃に達する場合もある。

この高温を溶接に利用する理由は単純だ。鉄の融点は約1,500℃であり、ステンレス鋼でも約1,400~1,500℃である。したがって、それを上回る熱源がなければ金属を溶かして接合することはできず、しかもガス溶接の炎温度が約3,000℃であるのに対し、アークはさらに高い温度を安定して発生させられるため、厚板や高融点材料の接合で優位に立つ。

アークを利用する溶接法には、被覆アーク溶接、TIG溶接(Tungsten Inert Gas)、MIG溶接(Metal Inert Gas)、MAG溶接(Metal Active Gas)、サブマージアーク溶接などがある。共通点は明快である。いずれもアークで母材を溶かす。ただし、電極の種類が消耗式か非消耗式か、シールド方法がガスかフラックスか、溶加材の送給方式がどうなっているかは、それぞれで異なる。

アークの安定性を左右する要素

アークは一度発生させれば勝手に燃え続けるわけではなく、電流、電圧、アーク長、シールド環境がそろって初めて安定するものであるから、被覆アーク溶接で溶接棒の被覆剤が燃焼してガスを発生させていても、このシールドが不十分であればアークは乱れ、スパッタが増えるだけでなく、溶接部に気孔やブローホールが発生しやすくなる。

TIG溶接では、タングステン電極が非消耗式であるため、アーク長を一定に保つ技量が求められる。電極と母材の距離が数ミリ変わるだけで入熱量は変動する。その結果、溶け込み不足や溶け落ちにつながる。一方、半自動のMAG溶接ではワイヤ送給速度と電流のバランスが自動制御されるため、アークの安定性は被覆アーク溶接やTIG溶接より高い傾向にある。

なぜアークが溶接の主流になったのか

19世紀末にアーク溶接の原理が発見され、20世紀初頭に実用化が進んだが、それ以前の金属接合はリベット締結や鍛接が主流であり、ガス溶接も併用されていたものの、厚板や大型構造物には対応しにくかったため、アーク溶接は高温・高速・高入熱という特性によって鉄骨建築、造船、圧力容器、橋梁といった重厚長大産業の成長を支えてきた。

日本溶接協会(JWES)が実施する溶接技能者評価試験の2022年統計によれば、受験者数は104,035人(延べ数、新規+更新)で、うち手溶接33,486人、半自動溶接43,694人、ステンレス鋼溶接21,656人となっている(出典URL: https://www.jwes.or.jp/qualifications/wo/certification/)。この数値は就業者数そのものではない。資格更新を含む延べ受験者数だからだ。とはいえ、半自動溶接の受験者が手溶接を上回っている事実からは、現場でMAG溶接やMIG溶接が主流化している傾向が見て取れる。

アーク溶接が選ばれ続ける理由は熱源の強さだけではない。施工速度、機械化・自動化への適性、シールド方法の多様性、溶接姿勢への対応力といった実務上の柔軟性が大きく、ガス溶接は薄板や補修に向く一方で厚板を効率よく接合するには及ばず、抵抗溶接は量産ラインで威力を発揮しても形状の自由度が限られるため、用途の広さでアーク溶接が優位に立つ。

アークと似て非なる他の接合法

「溶接」と呼ばれる技術の中にはアークを使わないものも多く、代表例である抵抗スポット溶接は、母材同士を加圧しながら大電流を流し、接触抵抗による発熱で接合する方式であるため、自動車のボディパネルなど薄板の重ね接合に多用されるにもかかわらず、アークは発生しない。

レーザー溶接も、光エネルギーを熱源とする点でアーク溶接とは異なる。ただし、高出力レーザーを使った場合には金属蒸気が電離してプラズマが発生し、これが「レーザー誘起アーク」と呼ばれることもある。この場合はアークとレーザーの複合加熱が起きているが、原理の中心にあるのはレーザーであり、アークは副次的な現象にとどまる。

ガス溶接は、酸素とアセチレンなどの可燃性ガスを燃焼させて熱源とする。炎温度は約3,000℃である。アークの半分程度だ。薄板や銅合金の接合、補修作業には向くが、厚板の突合せ溶接には時間がかかる。現場で「ガス溶接とアーク溶接は別の資格」と認識されている背景には、労働安全衛生法の特別教育が分かれている事情もある。

アーク溶接の現場での呼び名と分類

現場では「アーク溶接」という総称はあまり使われず、「手棒(被覆アーク溶接棒)」「半自(半自動溶接=MAG/MIG)」「ティグ(TIG溶接)」といった略称で区別されることが多いが、これらはすべてアークを熱源とする点で共通している一方、施工条件や作業者に求められるスキルは同列ではなく、実務上の扱いには明確な差がある。

被覆アーク溶接は、溶接棒そのものが電極であり消耗する。棒の先端と母材の間にアークを発生させる。溶接棒を溶かしながら接合する。全姿勢(下向き、横向き、立向き、上向き)に対応できるが、運棒の技量が仕上がりを左右する。TIG溶接はタングステン電極を使い、別途溶加材を送給する方式であるため、アーク長の制御が難しい反面、薄板やステンレス鋼の精密接合に向く。

半自動溶接(MAG/MIG)は、ワイヤを自動送給しながらアークを発生させる。MAG溶接はCO₂やアルゴン混合ガスをシールドに使い、軟鋼や高張力鋼に適用される。MIG溶接はアルゴン100%のガスを使い、アルミニウムやステンレス鋼に向く。現場では「マグ」「ミグ」と呼び分けるが、いずれもアークを熱源としている点は変わらない。

アーク溶接と作業者の資格

アーク溶接を業務として行うには、労働安全衛生法に基づくアーク溶接特別教育の修了が必須であり、この教育は学科11時間、実技10時間の計21時間で構成されるため、修了証を持たない者がアーク溶接作業に就くことは違法となる一方、溶接技能者評価試験(日本溶接協会)は業務に就くための法的要件ではなく、技能の証明として位置づけられている。

特別教育は「最低限の安全知識と基礎技能」を担保するものであり、実務で通用する技能そのものを証明するものではない。現場で評価されるのは、JISやWESの技能者資格、特に基本級(3G、4G)や専門級(TN-P、T-1P等)の保有状況である。資格と技能の区別を理解していない求職者が「アーク溶接の資格を持っている」と述べても、それが特別教育の修了証なのか技能者資格なのかによって、現場での受け止めは大きく変わる。

アークが発生しない、またはすぐ消える場合の原因

アークが安定しない原因は、電流不足、アーク長の不適切、シールド不良、母材の汚れの4つに集約される。電流が低すぎるとアークは細く不安定になる。スパッタも増える。逆に高すぎると溶け込みが深くなりすぎ、溶け落ちやアンダーカットが発生する。

アーク長は電極と母材の距離で決まり、被覆アーク溶接では溶接棒の心線径の0.5~1.5倍程度が目安とされるが、姿勢や電流値によって調整が必要であり、TIG溶接でも2~5ミリ程度の距離を保つのが一般的とはいえ、これも電流や母材の厚みに応じて変わるため、長すぎればシールドガスが乱れて大気を巻き込み、酸化や窒化を招く。

母材表面に錆、油、塗装、スケールが残っていると、アークが不安定になるか、発生しても気孔やスラグ巻き込みが起きる。現場では「グラインダーで磨いたから大丈夫」と判断されることが多い。だが、油分は目視では分かりにくく、表面がきれいに見えても欠陥の原因になるため、溶剤拭きや脱脂が必要になる場合がある。

アークを使う判断と使わない判断

すべての金属接合にアークが最適なわけではなく、板厚1ミリ以下の薄板や熱影響を最小限に抑えたい精密部品ではレーザー溶接や抵抗溶接が選ばれ、アルミニウムの薄板接合ではTIG溶接が使われることもあるものの、入熱管理が難しいため溶け落ちのリスクは高くなる。

逆に、板厚10ミリを超える鋼材の突合せ溶接、多層盛りが必要な構造溶接、全姿勢での施工が求められる現場では、アーク溶接が第一選択となる。造船、橋梁、圧力容器、タンク、鉄骨といった分野では、その傾向がとくに強い。アーク溶接以外の選択肢が限られる場面も少なくない。

現場で「アークを使わない溶接」を選ぶ判断基準は板厚、材質、生産量、精度要求の4点であり、板厚が薄く、材質が熱に敏感で、生産量が多く、精度要求が厳しい場合は抵抗溶接やレーザー溶接が有利になるのに対し、板厚が厚く、材質が一般鋼で、生産量が少なく、精度要求がそれほど厳しくない場合は、アーク溶接が経済性と施工確実性の両面で選ばれやすい。

出典・集計方法・最終確認日

  • 日本溶接協会 溶接技能者評価試験統計(2022年)— https://www.jwes.or.jp/qualifications/wo/certification/

集計方法: 日本溶接協会が公表する2022年の溶接技能者評価試験受験者数・合格者数(延べ数、新規+更新)を引用。方法別受験者数は手溶接、半自動、ステンレス鋼、その他の内訳を記載。本統計は資格更新を含む延べ数であり、実際の就業者数とは異なる点に注意。

最終確認日: 2026-07-02