ティグ溶接 アーク溶接 違いとは、ティグ溶接がアーク溶接の一種であるという包含関係と、電極の消耗・シールドガス・適用場面における具体的な差を指す。

主要データ

  • アーク溶接受験者数:104,035人(日本溶接協会、2022年)
  • 方法別受験者:手溶接33,486人/半自動43,694人/ステンレス鋼21,656人(日本溶接協会、2022年)
  • 合格率:77.75%(日本溶接協会、2022年)

「ティグ溶接とアーク溶接は別物」だと思い込む現場作業者は少なくない。だが実際には、ティグ溶接はアーク溶接の一種であり、アーク放電を熱源とする点では被覆アーク溶接棒やマグ溶接(MAG)と共通しているため、違いとして見極めるべきなのは分類名そのものではなく、電極の消耗有無、シールドガスの種類、さらにどの場面で使うかという実務上の棲み分けである。

ティグ溶接はアーク溶接の一種である

ティグ溶接(TIG溶接、Tungsten Inert Gas溶接)は、タングステン電極と母材の間にアークを発生させ、不活性ガス(アルゴンまたはヘリウム)でアークと溶融池を保護しながら溶接する方法であり、電極は溶けず、必要に応じて溶加材を別途供給する構造となっている。 一方、アーク溶接とは「アーク放電の熱で金属を溶融接合する方法全般」を指す上位概念である。したがってティグ溶接はアーク溶接に含まれる。他にも被覆アーク溶接、マグ溶接(MAG)、ミグ溶接(MIG)、サブマージアーク溶接など、多くの方法がアーク溶接の傘下にある。 この包含関係を理解していないと、現場では「アーク溶接の資格を持っているならティグもできるだろう」という誤解が生まれやすく、法令上の教育区分と実務上の技能区分を混同したまま配置や育成を進める回り道も珍しくないため、分類の違いは早い段階で整理しておく必要がある。 実際には、労働安全衛生法上の特別教育は「アーク溶接等の業務に係る特別教育」として共通だが、技能認証(日本溶接協会のWES溶接技能者評価試験など)は方法別に分かれている。2022年の受験者数を見ると、手溶接33,486人、半自動43,694人、ステンレス鋼21,656人と方法別に集計されており(日本溶接協会 https://www.jwes.or.jp/qualifications/wo/certification/)、別々の技能として扱われていることが見て取れる。

電極の消耗と溶加材の供給方式が決定的に異なる

ティグ溶接と被覆アーク溶接棒、マグ溶接(MAG)の最大の違いは、電極が溶けるか否かにある。 被覆アーク溶接では、被覆剤で覆われた鋼線(溶接棒)が電極であり、アークの発生と同時に溶けて溶着金属になる。溶接棒そのものが溶加材であり、マグ溶接(MAG)やミグ溶接(MIG)でも同様に、ワイヤが電極兼溶加材として連続供給され、アークで溶けながら母材と一体化していく。 対してティグ溶接では、タングステン電極は融点が3,422℃と高く、アークの熱でも溶けないため、溶加材が必要な場合は作業者が手で別途供給することになり、薄板やパイプの突合せなどでは、溶加材を使わずに母材だけを溶融接合する「溶加材なし溶接」も可能となる。 差は単純ではない。 この違いは、溶接後の仕上がりと作業の自由度にそのまま表れやすく、ティグ溶接は電極が溶けないぶんビードの形状を細かく制御しやすく、スパッタ(溶融金属の飛散)もほぼ発生しない一方、被覆アーク溶接やマグ溶接(MAG)は溶接速度が速く、厚板や長尺物の施工で優位に立つ場面が多い。 現場で「仕上げ面が重要ならティグ、速度と歩留まりを優先するならマグ」と使い分けられることが多いのは、電極消耗の有無が作業テンポだけでなく、溶着量の確保、ビード形成の自由度、後工程での手直しの量にまで影響を及ぼすからであり、工法の差は見た目以上に作業全体へ波及する。

シールドガスの種類と目的が異なる

ティグ溶接は不活性ガス(アルゴンまたはヘリウム)を使い、アークと溶融池を酸化から守る。ガスは化学反応に関与せず、純粋に保護膜として機能する。 マグ溶接(MAG)は活性ガス(二酸化炭素、またはアルゴン+二酸化炭素の混合ガス)を使う。ミグ溶接(MIG)はアルゴンやヘリウムの不活性ガスを使う。活性ガスは溶融金属と反応してスラグを生成し、酸化を防ぐと同時にアークを安定させる効果がある。 被覆アーク溶接では、溶接棒の被覆剤が溶けてガスとスラグを発生させるため、外部からのシールドガスは不要だ。 この違いは、溶接後のスラグ除去作業の有無と溶接部の清浄度に影響し、ティグ溶接ではスラグが発生しないため多層盛りでも層間のスラグ除去が不要となる一方、食品機械や半導体製造装置など清浄度が求められる用途では、その特性が工程短縮と品質確保の両面で利点として働く。 マグ溶接(MAG)や被覆アーク溶接は、溶接後にスラグをチッピングハンマーやワイヤブラシで除去する工程が必須になる。清浄度の要求が高い現場ほど、この差は見過ごしにくい。

現場での使い分け基準は板厚と仕上げ要求で決まる

結論からいえば、板厚6mm未満でビード外観が重要ならティグ溶接、板厚6mm以上で溶接速度を優先するならマグ溶接(MAG)または被覆アーク溶接を選ぶのが現場の定石であり、工法選定は名称の印象ではなく、板厚と仕上げ要求の組み合わせでおおむね決まる。 ティグ溶接は入熱が小さく、薄板(1〜3mm)やパイプ(配管、ステンレス製タンクの継手)、アルミニウム合金(航空機部品、自転車フレーム)、チタン(医療機器、化学プラント)など、熱歪みを抑えたい場面で選ばれる。溶接速度は遅いが、ビードの美しさと溶接部の清浄度が求められる用途では評価が高い。 マグ溶接(MAG)は板厚6mm以上の鋼材、特に建築鉄骨や造船、車両製造など大物溶接で主力となる。溶接速度が速く、溶着効率が高いため、長尺ビードを短時間で仕上げられる。半自動溶接機を使えば、作業者の疲労も軽減しやすい。 被覆アーク溶接は、電源さえあればどこでも作業できる可搬性が強みであり、工事現場や屋外での補修溶接、仮設構造物の組立など機動性が求められる場面では今も第一選択肢となる一方、溶接棒の交換頻度が高く、スラグ除去の手間もかかるため、工場内の定常作業では半自動溶接に置き換わる傾向が強い。 日本溶接協会の2022年統計では、半自動溶接(マグ/ミグ)の受験者が43,694人と最多であり、手溶接(被覆アーク)の33,486人を上回る。この逆転は、製造現場での半自動化の進展を反映している。一方、ステンレス鋼溶接(多くはティグ溶接)の受験者も21,656人おり、清浄度と耐食性が求められる分野での需要は依然として厚い。

誤解されやすい「アーク溶接の資格」の範囲

「アーク溶接の資格を取ればティグもできる」という誤解は、特別教育と技能認証の違いを混同したものだ。 労働安全衛生法に基づく「アーク溶接等の業務に係る特別教育」は、被覆アーク、ティグ、マグ、ミグすべてを包含する。この教育を修了すれば、法的には各種アーク溶接作業に従事できる。ただし、これはあくまで「業務に就く最低限の安全教育」であり、技能を証明するものではない。 技能認証(日本溶接協会のWES溶接技能者評価試験など)は方法別に分かれており、被覆アーク溶接の基本級を持っていても、ティグ溶接やステンレス鋼溶接の試験には別途合格しなければならないため、法的に作業できることと、発注条件を満たすことは同じではない。 2022年の合格率は全体で77.75%だが、方法別の難易度差は大きい。ティグ溶接は運棒と溶加材供給のタイミングが難しく、初回受験での合格率は被覆アークより低い傾向がある。 製造現場では、発注元から「WES認証のティグ溶接技能者が施工すること」と指定されるケースも多く、このとき被覆アーク溶接の技能者しかいなければ、外注するか新たに認証を取得するしかないため、資格名称の理解不足は人員配置や受注対応の制約として表面化しやすい。 特に食品機械や医薬品プラントなど、溶接部の清浄度が製品品質に直結する業種では、ティグ溶接の技能認証が事実上の入場券となっている。

次に取るべきアクションは現場の主力材料で決める

まず自分の現場で最も多く扱う材料と板厚を確認しろ。薄板ステンレス・アルミニウム・チタンが中心ならティグ溶接の技能認証を目指す。厚板の炭素鋼・低合金鋼が中心なら、半自動溶接(マグ/ミグ)の技能認証を優先する。両方を扱う現場なら、まず半自動を取り、次にティグを追加する進め方が効率的である。 特別教育は全方法共通で受講時間も短い(学科11時間+実技10時間)ため、入社時に取得しておき、その後は実務経験を積みながら発注元や元請が求める技能認証を順次取得していく流れが現実的であり、受験前に訓練校や職業能力開発施設の短期講習を受ければ、独学で試験に臨む場合よりも運棒の癖を修正しやすい。 講習の影響は小さくない。 日本溶接協会の統計を見ると、ピーク時の1997年には受験者が119,427人いたが、2022年は104,035人まで減少している。就業者数の減少と高齢化が背景にあるが、逆に言えば、技能認証を持つ若手溶接工の希少価値は年々上がっている。まずは現場で使う方法の認証を1つ取り、次に隣接する方法へと広げていくほうが進めやすく、複数の方法を使いこなせる溶接工は、配属先や案件の幅を広げやすい立場となる。

出典・集計方法・最終確認日

  • 日本溶接協会「溶接技能者評価試験 受験者・合格者数統計」(2022年)— https://www.jwes.or.jp/qualifications/wo/certification/

集計方法: 日本溶接協会の公開統計から、2022年の受験者数・合格者数・合格率を引用。方法別の内訳(手溶接/半自動/ステンレス鋼/その他)は同統計の分類に従う。なお、この統計は受験者・合格者の延べ数(新規+更新)であり、就業者数ではない。

最終確認日: 2026-07-03