mig溶接とtig溶接の違いとは、消耗電極を送給しながら溶接するか、非消耗電極で溶加棒を手で送るかの違いだ。前者は溶接速度を重視し、後者は仕上がり品質を優先する。
主要データ
- 半自動溶接(MAG/MIG)受験者:43,694人(日本溶接協会、2022年)
- TIG溶接を含むその他溶接受験者:5,199人(日本溶接協会、2022年)
- 総受験者数:104,035人(日本溶接協会、2022年)
MIGとTIGの混同が設備投資を狂わせる
「どちらもアーク溶接だから同じ機械で使い分けられる」という理解は、電源だけを見て送給装置やガス系統、トーチ周辺の構成差を見落とす発想に傾きやすく、そのまま見積もりを進めると導入後の追加購入や配管変更まで招き、設備投資の前提そのものを狂わせる原因となる。
溶接法の選定は、母材・板厚・姿勢・品質要求を同時に見て組み立てる判断であり、単なる機械の好みでは片づかない。しかもmigとtigの違いは「電極が溶けるか否か」という一見単純な区別に集約されるため、そこを曖昧にしたまま進めると、ガスボンベの種類からトーチの型番まで二度手間になりやすく、導入後に用途の読み違いへ気づく回り道も珍しくない。
非消耗電極か消耗電極か――電極の性質がすべてを分ける
mig溶接(Metal Inert Gas)はワイヤを電極として連続送給し、アークの熱で母材とワイヤを同時に溶かす方式で、電極自体が溶加材として溶融池へ入る。一方tig溶接(Tungsten Inert Gas)はタングステン棒を電極とするため電極は溶けず、溶加材が必要な場合は溶接工が手で溶加棒を差し込む。
この差は単なる部材の違いにとどまらず、作業者の手の使い方、運棒の安定性、溶融池への介入方法まで変えるため、同じアーク溶接に分類されていても現場感覚では別の作業に近く、速度を優先するか、入熱とフィラーメタル量の細かな追い込みを優先するかで評価が分かれる。
mig溶接は片手でトーチを持ち、もう片方の手を支持に回せる。ワイヤが自動送給されるため、運棒速度を維持しやすい。対してtig溶接は片手にトーチ、もう片方の手に溶加棒を持つ構えとなり、両手の協調が前提となるが、そのぶん溶融池への介入を細かく刻める。
シールドガスにも差がある。mig溶接では不活性ガス(アルゴン単体またはアルゴン+ヘリウム混合)を使う。炭酸ガスを混ぜるとmag溶接(Metal Active Gas)と呼び分けるのが通例だ。tig溶接も不活性ガスを使うが、主流はアルゴンであり、ヘリウム混合は入熱を高めたい場面に限られる。
電極消耗が材料コストと段取りに与える影響
mig溶接のワイヤは消耗品であり、直径0.8mm~1.6mmのワイヤが5kg~20kgのスプールに巻かれて供給されるため、溶接量が増えるほど在庫管理と交換段取りの比重も増し、量産現場では1日に数回スプール交換が入る一方、tig溶接のタングステン電極は先端が汚染されない限り研磨して継続使用できるものの、溶加棒は別建てで管理する必要がある。
開発と普及の歴史――航空機と原子力が育てた技術
tig溶接は1940年代に米国で実用化され、当初はヘリアーク溶接(Heliarc)と呼ばれていたが、その背景には航空機向けのアルミニウム合金やマグネシウム合金を安定して接合したいという要求があり、タングステン電極の融点が3,400℃と高くアークも安定するため、薄肉材や高純度材料の溶接に向いた。
1950年代には原子力産業がステンレス鋼配管の溶接にtig溶接を採用し、裏波溶接技術が確立された。用途が厳しかったからこそ、品質面での評価が積み上がったのである。
mig溶接はtig溶接よりやや遅れて1940年代後半に登場し、アルミニウムの溶接を高速化する目的でワイヤ送給装置と直流電源を組み合わせた半自動溶接として実用化されたうえ、1960年代には炭酸ガスを混ぜたmag溶接が鉄鋼溶接の主力となり、造船・橋梁・建築鉄骨の分野へ急速に広がった。
日本では高度経済成長期に工場の自動化と並行してmag溶接が導入され、現在も半自動溶接の受験者数が全体の4割を超える。日本溶接協会の統計によれば、2022年の半自動溶接(MAG/MIG)受験者は43,694人、tig溶接を含むその他溶接は5,199人だ。https://www.jwes.or.jp/qualifications/wo/certification/
現場での使い分け――板厚と姿勢と仕上がりの優先順位
tig溶接が選ばれるのは、薄板(板厚3mm未満)、ステンレス鋼やアルミニウム合金、裏波溶接が求められる配管、外観品質が重視される製品であり、溶融池が小さく入熱を細かく制御できるため歪みを抑えやすく、板厚が薄いほどその利点が作業結果へ現れやすい一方、溶接速度は遅く量産向きとは言いにくい。
mig溶接は板厚6mm以上の中厚板、長尺ビードを連続して引く構造物、多層盛りが必要な箇所で力を発揮する。ワイヤ送給速度と溶接速度を上げれば、tig溶接の数倍の速さで接合できる。ただし入熱は大きくなりやすく、薄板では溶け落ちや歪みのリスクが前面に出る。
姿勢の制約も同一ではない。tig溶接は下向き姿勢が最も安定するが、横向き・立向き・上向きでも溶融池を見ながら細かく追従できるため、形状変化への対応力では柔軟さがある。これに対しmig溶接は短絡移行モードなら全姿勢に対応できるものの、スプレー移行やパルス移行では下向き姿勢が基本となる。
実務上の判断基準――速度と品質のトレードオフ
結論だけを先に置けば、速度を優先するならmig溶接、品質を優先するならtig溶接となるが、ここでいう品質は外観の整い方だけではなく、X線透過試験や超音波探傷試験で内部欠陥を拾われにくいかどうかまで含むため、検査条件が厳しい現場ほどtig溶接の優位が見えやすく、目視と浸透探傷試験が中心ならmag溶接で足りる場面も多い。
機材と消耗品――トーチ・ガス・電源の違い
tig溶接のトーチは細く軽く、タングステン電極を先端に固定し、ガスカップでシールドガスを流す構造であるため、手元の視認性と取り回しを確保しやすい。電流容量は150A~300Aが一般的だ。空冷式と水冷式がある。水冷式は高電流での連続使用に耐えるが、冷却水循環装置が別途必要となる。
mig溶接のトーチは太く重く、ワイヤを通すコンジットとガスノズルが一体化しており、送給モーターの駆動力を受けてワイヤが先端から出るため、構造は単純に見えても運用上は送給系の安定が品質へ直結し、電流容量も200A~500Aの範囲を中心に、産業用ロボット向けでは600A以上の大電流トーチまで使われる。
電源は交流tig溶接機、直流tig溶接機、mig/mag溶接機に分かれる。交流tig溶接はアルミニウムやマグネシウムの酸化皮膜を除去するクリーニング作用を持つ。直流tigは鉄鋼・ステンレス鋼に使う。mig/mag溶接機は定電圧特性の電源で、ワイヤ送給速度と電流が自己調整する仕組みとなっている。
技能習得の難易度――両手の協調と視覚情報の違い
tig溶接の習得曲線は急であり、トーチと溶加棒の両手操作、アーク長の維持、溶融池の観察を同時にこなす必要があるため、初心者がまともなビードを引けるまでに数週間かかることは珍しくなく、さらに薄板やパイプのように許容幅が狭い対象では、わずかな手ぶれや送棒の遅れがそのまま欠陥へつながりやすい。
だが一度身につけば、薄板からパイプ裏波まで応用範囲は広い。技能の汎用性は高い部類に入る。
mig溶接は習得の入口が低く、片手でトーチを持って運棒速度と角度を一定に保てば、初期段階でもある程度のビードを形成しやすい一方、高品質を安定させる段階に入るとワイヤ送給速度と電圧の調整、ウィービングのタイミング、スパッタ抑制まで詰める必要があり、見た目の手軽さに対して習熟の奥行きは深い。
資格と現場評価――半自動とTIGで分かれる技能証明
日本溶接協会のJIS/WES溶接技能者評価試験では、mig/mag溶接は「半自動溶接」区分、tig溶接は「ステンレス鋼溶接」または「その他溶接」区分で受験するため、同じアーク溶接に含まれていても評価軸は分かれており、資格名だけでなく、どの方法でどの条件を通過したかが現場評価の読み取りに直結する。
2022年の受験者数は手溶接33,486人、半自動43,694人、ステンレス鋼21,656人、その他5,199人だ。半自動溶接の受験者が最も多く、需要の偏りが数字にも表れている。https://www.jwes.or.jp/qualifications/wo/certification/
企業が求める資格は分野で異なり、造船・橋梁・建築鉄骨ではmag溶接の技能証明が評価される一方、化学プラント・食品機械・半導体製造装置ではtig溶接の技能証明が重視されるため、両方の資格を持つ溶接工は選択肢を広げやすいが、実務では片方に特化して経験を積んだ方が短期間で評価へ結びつくことも多い。
次に取るべき行動――用途を決めてから機材を選べ
mig溶接とtig溶接のどちらを学ぶか迷う場合、作業者はまず自分が扱う対象を明確にし、薄板のステンレス鋼や配管ならtig溶接、厚板の鉄鋼や量産ならmig/mag溶接という大枠で整理したうえで、機材購入より先に近隣の職業訓練校や溶接協会の講習で両方を試し、手の相性と用途の一致を見極める順序を取る方が無駄が少ない。
資格は取得後も更新が必要だが、実務で使い続けていれば更新試験は通過点にとどまる。進め方としては、どちらか一方を先に深く身につけ、必要に応じてもう一方を追加する形が現実的となっている。
出典・集計方法・最終確認日
- 出典: 日本溶接協会 JIS/WES 溶接技能者評価試験統計(2022年)— https://www.jwes.or.jp/qualifications/wo/certification/
集計方法: 日本溶接協会が公表する2022年受験者数・合格者数(延べ数、新規+更新を含む)を方法別に集計。本統計は技能者数ではなく受験者数である点に注意。
最終確認日: 2026-07-06




