溶接におけるアンダーカットとは、溶接ビード止端部に沿って母材が溶けて削られ、溝状の窪みとして残る欠陥のことである。

主要データ

  • 溶接技能者評価試験 受験者数:104,035人(日本溶接協会、2022年)
  • 同 合格者数:80,896人(合格率77.75%、日本溶接協会、2022年)
  • 半自動溶接 受験者数:43,694人(全体の42.0%、日本溶接協会、2022年)

現場で「線状の凹み」と呼ばれる瞬間

溶接ビードの両端に沿って、髪の毛のような細い溝が走っているのを見つけた溶接工は多い。マグ溶接で薄板を立向姿勢で溶接した直後、ビード止端部を指でなぞると段差を感じる。これがアンダーカットだ。教科書では「母材が溶融して削られた状態」と説明されるが、現場では「ビード両端の線状の凹み」という呼び方のほうが通じる。

日本溶接協会が公表した2022年の溶接技能者評価試験では、受験者104,035人のうち合格者は80,896人で合格率は77.75%だった(出典: https://www.jwes.or.jp/qualifications/wo/certification/)。この不合格の一部には、アンダーカット深さが判定基準を超えた受験者が含まれている。とりわけ半自動溶接(MAG・MIG)の受験者43,694人は全体の4割を占めるが、半自動溶接は高電流・高速施工でアンダーカットが出やすい溶接法として知られる。

母材表面が溶け落ちる境界線

アンダーカットは溶接金属と母材の境界、すなわちビード止端部に発生する。溶接中にアークの熱で母材表面が溶融し、溶融池が重力や表面張力で流れ落ちるとき、母材の一部が溶接金属で埋め戻されずに溝として残る。深さは0.数ミリから1ミリ超まで幅があるが、JIS Z 3104(アーク溶接継手の検査基準)では、板厚や用途に応じて許容深さが定められている。許容範囲を超えたアンダーカットは欠陥と判定され、補修または再溶接の対象になる。

アンダーカットと混同されやすい欠陥にオーバーラップ(余盛が母材に食い込まず重なっただけの状態)があるが、両者の違いは母材が削られているか否かだ。アンダーカットは母材が溶けて窪んでいるのに対し、オーバーラップは溶接金属が母材表面に載っているだけで、母材自体は削られていない。指で触れば段差の向きで区別できる。

電流・速度・角度が重なる境界条件

アンダーカットの発生は、溶接電流・運棒速度・トーチ角度の組み合わせで決まる。電流が高すぎれば母材の溶融量が増えて溶融池が広がり、運棒速度が速すぎれば溶融金属が母材を埋め戻す前に固まる。トーチ角度が母材に対して急すぎると、アークの集中で局所的に深く削られる。半自動溶接では短絡移行とスプレー移行で入熱量が異なり、スプレー移行は入熱が大きいためアンダーカットが出やすい。

立向・横向姿勢では重力が溶融池を下方に引っ張るため、下向姿勢よりアンダーカット発生率が高い。これは姿勢別の試験合格率にも表れており、姿勢が難しくなるほど不合格者が増える傾向がある。

応力集中と疲労破壊の起点

アンダーカットが問題になるのは、溝状の窪みが応力集中を引き起こすからだ。溶接継手に引張荷重や繰り返し荷重がかかると、アンダーカット底部に応力が集中し、そこから疲労亀裂が進展する。静的強度試験では許容範囲内でも、繰り返し荷重を受ける構造物(橋梁・クレーン・車両フレーム)では致命的な弱点になる。このため、疲労強度を要求される継手では、アンダーカット深さの許容値が通常より厳しく設定されている。

船舶や圧力容器では、アンダーカット部から腐食が進行するリスクもある。窪みに水分や塩分が滞留しやすく、局部的な腐食が加速する。

グラインダ仕上げと再溶接の分岐点

アンダーカットの補修方法は深さと許容基準で変わる。浅い場合はグラインダで止端部を滑らかに削り、応力集中を緩和する方法が取られる。深い場合や疲労強度が必要な継手では、アンダーカット部を完全に除去してから再溶接する。ただし再溶接は入熱が重なるため、母材の熱影響部が広がり、材質変化のリスクが増す。溶接後熱処理(PWHT)が必要な鋼種では、再溶接後に再度熱処理を行う手間が発生する。

結論からいえば、アンダーカットは「出してから直す」より「出さないように溶接する」ほうが現場の工数は圧倒的に少ない。電流・速度・角度の条件出しに時間をかけ、試験溶接で確認してから本溶接に入る手順が、結果的に手戻りを減らす。

手溶接と半自動溶接で変わる管理点

被覆アーク溶接(手溶接)では、溶接棒の運棒速度と角度を作業者が手で調整するため、アンダーカット抑制は技能に依存する。ウィービング(横揺れ運棒)の幅と速度を適切に保ち、溶融池が母材を十分に埋めるタイミングで次に進む。熟練溶接工は溶融池の形状と色を見ながら、アンダーカットが出る前に運棒を微調整する。

半自動溶接では、ワイヤ送給速度と電流が連動して自動制御されるため、手溶接より条件の再現性は高い。だがトーチ角度と前進速度は作業者に委ねられており、ここでアンダーカットが出る。とくに立向・横向姿勢では、ウィービング幅を狭くして溶融池を小さく保つ技術が求められる。

TIG溶接は入熱の制御性が高く、溶融池の形成が緩やかなため、他の溶接法に比べてアンダーカットは出にくい。ただし溶加棒の送り量とタイミングが不適切だと、やはり止端部に窪みが残る。

検査と記録に残る境界線

アンダーカットの検査は目視とゲージ測定が基本だ。ビード止端部に沿って、溶接ゲージのブレード(刃)を当て、窪みの深さを測る。深さが許容値を超えれば不合格となり、補修指示が出る。非破壊検査では、超音波探傷試験(UT)や磁粉探傷試験(MT)でアンダーカット底部の微小亀裂を検出する場合もある。

検査記録には、アンダーカットの位置・深さ・長さが記載され、補修の有無と補修方法も残る。これは品質保証と法的責任の証拠になるため、記録の正確性が求められる。橋梁や圧力容器では、検査記録が数十年にわたって保管され、保守・改修時の判断材料になる。

次に確認すべき条件出しの手順

アンダーカットを防ぐには、まず母材の板厚・材質・姿勢に応じた溶接条件(電流・電圧・速度)を試験溶接で確定させることだ。試験片でビード外観と止端部の形状を確認し、アンダーカットが出ない範囲を把握する。次に本溶接に入るとき、トーチ角度と前進速度を一定に保つ。立向・横向では溶融池を小さく保ち、重力で溶融金属が流れる前に次のパスに移る。これが現場で再現性のある品質を出す最短経路だ。

出典・集計方法・最終確認日

  • 日本溶接協会 溶接技能者評価試験統計(2022年)— https://www.jwes.or.jp/qualifications/wo/certification/

集計方法: 日本溶接協会が公表した2022年の溶接技能者評価試験統計から、受験者数・合格者数・合格率および方法別受験者数(手溶接・半自動・ステンレス鋼・その他)を引用した。本統計は新規取得と更新を含む延べ数であり、実際の就業者数ではない点に注意が必要である。

最終確認日: 2026-07-08