アーク溶接は電極と母材間にアークを発生させ金属を溶接する技法だ。初心者が詰まるのはアーク長の保持と運棒速度の調整で、電流設定ミスと併せて溶け込み不足やアンダーカットを招く。
アーク溶接で最初に詰まるポイント
アーク溶接で初心者が最初に壁にぶつかるのは、電極先端と母材の距離(アーク長)の保持であり、教科書では「3〜5mm程度」と記載されるものの、実際の現場では母材の姿勢・開先形状・電流値によって適切なアーク長は変動するため、数値だけを機械的に当てはめても安定したアークにはつながらない。アーク長が長すぎればスパッタが増え、短すぎれば電極が母材に突き刺さって短絡する。
次に直面するのが運棒速度の調整である。作業者は溶融池の状態を見ながら電極を動かす速度を制御するが、速すぎれば溶け込み不足、遅すぎれば余盛過多とアンダーカットが発生し、しかも運棒速度は電流値・板厚・姿勢の組み合わせで変わるため、平板の下向き姿勢で感覚を掴んでも立向きや横向きでは同じ操作がそのまま通用しない場面が多い。
電流設定も頻出の失敗箇所である。溶接施工要領書(WPS)に記載された推奨電流は標準的な条件を前提にした数値であり、薄板や狭開先では電流を下げないと溶け落ちが起きる一方で、厚板や多層盛では電流不足のままでは溶け込みが確保できないため、現場では溶接音とビード形状を見て微調整する運用が基本となっている。
前提条件と必要な道具
法定の資格要件
アーク溶接作業に従事する労働者は、労働安全衛生法第59条および労働安全衛生規則第36条に基づき、事業者が実施する「アーク溶接特別教育」を修了する必要がある。この教育は学科11時間・実技10時間の合計21時間で構成され、修了証が交付される。特別教育を受けずにアーク溶接作業を行わせた場合、事業者は労働安全衛生法違反に問われる。
溶接ヒュームを常時吸入する作業場では、2021年4月施行の特定化学物質障害予防規則(特化則)により、換気装置の設置・呼吸用保護具の着用・作業環境測定などの措置が義務づけられており、さらに溶接ヒューム対策の指揮を担う「金属アーク溶接等作業主任者」の配置が求められる現場もあるため、資格要件は単なる技能の証明ではなく、衛生管理体制の整備と一体で扱うべき実務条件となっている。
必要な設備と保護具
被覆アーク溶接に必要な主要設備を以下に示す。
- アーク溶接機(交流または直流、定電流特性)
- 溶接ケーブルとアースクランプ
- 溶接棒ホルダー
- 被覆アーク溶接棒(JIS Z 3211準拠、E4316またはE4303など)
- チッピングハンマーとワイヤブラシ(スラグ除去用)
保護具は以下が必須となる。
- 遮光度10〜13の遮光面または自動遮光面
- 革製溶接手袋
- 長袖の溶接エプロンまたは革製前掛け
- 安全靴
- 呼吸用保護具(密閉空間や換気不十分な場所では必須)
母材の準備として、開先加工が必要な場合はグラインダやガス切断機で事前に加工し、表面の油脂・錆・塗装をワイヤブラシで除去しておく必要があり、母材表面の汚れは気孔やスラグ巻込みの原因になるため、この工程を省くと溶接中には見えにくい欠陥が後工程で表面化し、手直しが増える傾向が見て取れる。
Step 1: 溶接機の電源種別と極性の設定
アーク溶接機には交流(AC)と直流(DC)があり、使用する溶接棒の被覆剤種別に応じて選択する。イルミナイト系(E4303)は交流・直流ともに使用可能だが、低水素系(E4316)は直流専用である。低水素系は溶接金属の耐割れ性が高く、圧力容器や構造物の溶接では指定されることが多い。
直流溶接機を使用する場合、極性の選択が必要になり、直流正極性(DCEP)は電極がプラス、母材がマイナスで溶け込みが深く厚板向きとなる一方で、直流逆極性(DCEN)は電極がマイナス、母材がプラスで溶け込みが浅く薄板向きになるため、被覆アーク溶接では一般にDCEPが使用されるが、薄板やオーバーヘッド姿勢ではDCENを選ぶ場合もある。
電流値は溶接棒の直径と姿勢で決まる。棒径3.2mmの下向き姿勢なら電流は標準的な範囲から開始し、ビード形状と溶接音を見ながら調整するが、立向き・横向き・上向き姿勢では下向きより電流を下げないと溶融池が垂れてアンダーカットが出るため、同じ棒径でも姿勢が変われば設定の基準も動く。

Step 2: アークの起動と初期のアーク長管理
溶接棒を母材に軽く叩きつけて引き上げる「タッピング法」または、マッチを擦るように母材表面を滑らせる「スクラッチング法」でアークを起動するが、タッピング法は起動位置が明確で狙いやすい一方で叩きつける力が強すぎると電極が母材に張り付いて短絡し、スクラッチング法は滑らかに起動できるものの母材表面にスリ傷が残るため、仕上げ面が見える箇所では避ける判断が必要になる。
アークが起動したら、電極を母材から3〜5mm程度離した位置で保持する。アーク長が長いとアークが不安定になり、スパッタが増加して溶け込みが浅くなる。逆にアーク長が短すぎると電極が母材に接触して短絡し、アークが消える。
アーク音は「ジリジリ」という連続音が正常であり、「パチパチ」と断続的な音がする場合はアーク長が長すぎるか電流が不足している可能性が高く、さらに「ボコボコ」という鈍い音は電流過大または運棒速度が遅すぎて溶融池に過熱が起きているサインであるため、作業者は視覚だけでなく聴覚も含めて状態を判断しなければならない。
Step 3: 運棒動作と溶融池の観察
運棒とは、溶接線に沿って電極を移動させる動作を指す。基本は直線運棒で、溶接線方向に一定速度で電極を進める。作業者は溶融池の幅と形状を見ながら速度を調整し、母材が十分に溶けて溶融池が広がったタイミングで前進する。
運棒速度が速すぎると溶融池が追いつかず、溶け込み不足とビード不連続が発生するが、遅すぎると溶融池が過大になって余盛が高くなり、アンダーカットも出やすくなるため、適切な速度は溶融池の後端が滑らかに凝固し、ビード表面がリップル模様を形成する状態から見極めることになる。
ウィービング運棒は、電極を左右に振りながら進める方法で、広い開先や多層盛の中間層で使用する。振り幅は溶接棒直径の2〜3倍程度にとどめ、両端で一瞬停止して開先の肩部を溶かし込む。振り幅が大きすぎるとスラグ巻込みや融合不良を招くため、狭開先では直線運棒を選ぶ。
Step 4: 溶接姿勢別の電極角度と電流調整
下向き姿勢(F)
下向き姿勢は重力が溶融池を保持する方向に働くため、最も安定した溶接が可能であり、電極の進行角は前進法で10〜15度、後退法で15〜20度を基準にするが、前進法は溶け込みがやや浅く、後退法は溶け込みが深いという違いがあるため、厚板や重要継手では後退法を選び、薄板や仮付け溶接では前進法を使う運用となる。
立向き姿勢(V)
立向き姿勢では溶融池が重力で垂れ落ちるため、電流を下向き姿勢より下げ、運棒速度を速める。電極は上向きに溶接する「上進法」が基本で、電極角度は進行方向に対して5〜10度上向きに傾ける。下進法は溶融池が流れやすく、初心者には扱いが難しい。
立向きでは短いアーク長を保ち、溶融池が小さいうちに次の位置へ進む必要があり、溶融池が大きくなると重力で垂れてアンダーカットやオーバーラップが発生するため、ウィービング運棒を使う場合は開先の両端で電極を停止させ、溶融池が凝固するのを待ってから中央に戻す操作が求められる。
横向き姿勢(H)
横向き姿勢では溶融池が下側に流れやすく、上側の開先肩にアンダーカットが出る。電極は下側の開先肩に向けて10〜15度傾け、溶融池を下から押し上げるように運棒する。電流は下向きより若干下げ、運棒速度は溶融池の流れを見ながら調整する。
上向き姿勢(O)
上向き姿勢は溶融池が重力で落下するため、最も難易度が高く、電流を大幅に下げたうえで短いアーク長を維持しながら素早く運棒する必要があるうえ、電極角度は母材に対して垂直に近く保ち、溶融池が小さいうちに凝固させなければならないため、余盛は薄く仕上げて厚盛りを避けるのが基本となる。
Step 5: 多層盛溶接とパス間のスラグ除去
開先深さが大きい場合や厚板の突合せ溶接では、複数回に分けて溶接金属を積層する多層盛溶接を行い、1層目(ルートパス)は開先底部の溶け込みを確保するために電流をやや高めに設定して運棒速度を遅くするが、この初層の状態が後続パス全体の品質を左右する。
各パスの終了後、スラグをチッピングハンマーで除去し、ワイヤブラシでビード表面を清掃する。スラグを残したまま次のパスを重ねると、スラグ巻込み欠陥が発生する。特にビード端部や開先の肩部はスラグが残りやすく、入念に除去する。
中間層(フィラーパス)は開先を埋めるための層で、ウィービング運棒で幅広く盛り、電流は1層目より下げて溶融池が開先の両肩まで広がるように運棒する一方で、最終層(カバーパス)は表面仕上げの層として余盛高さと形状を整える必要があり、余盛が高すぎると応力集中を招き、低すぎると強度不足につながる。
Step 6: 溶接終了とクレーター処理
溶接を終了する際、アークを急に切ると溶接線の終端にクレーター(凹み)が残り、クレーターは割れの起点になるため、終端では電極を一瞬後戻りさせてクレーターを埋めてからアークを切るか、終端部を次のパスの始端と重ねる位置に設定してクレーターを次のパスで溶かし込む方法を採る。
アークを切った後、溶接部は高温のまま放置せず、自然冷却させる。低水素系溶接棒を使用した場合や高張力鋼では、急冷による硬化割れを防ぐため、予熱・後熱の温度管理が必要になる。溶接施工要領書に予熱温度が指定されている場合、温度計で母材温度を測定して確認する。
よくある失敗と対処法
アンダーカット
アンダーカットは、ビード端部の母材が溶けて凹みができる欠陥だ。原因は電流過大、運棒速度が速すぎ、アーク長が長すぎのいずれかである。対処法として、電流を下げて溶融池の温度を下げる、運棒速度を遅くして母材に熱を十分与える、アーク長を短くしてアークの集中度を上げる、の3つが挙げられる。
立向き姿勢や横向き姿勢では、重力の影響でアンダーカットが出やすく、ウィービング運棒の振り幅を小さくしたうえで開先肩部で電極を一瞬停止させて溶融池を安定させる必要があるため、姿勢に応じた操作修正を行わないまま下向きの感覚を持ち込むと、同じ欠陥を繰り返す状態に陥りやすい。
溶け込み不足
溶け込み不足は、母材と溶接金属の融合が不十分で、継手強度が確保できない欠陥だ。原因は電流不足、運棒速度が速すぎ、開先面の汚れのいずれかである。対処法は、電流を上げて入熱量を増やす、運棒速度を遅くして熱を十分に与える、開先面をワイヤブラシとグラインダで清掃する、の3つだ。
多層盛の1層目で溶け込み不足が起きると、後続パスで表面を整えても根本の融合不良は残るため、ルートパスでは電流をやや高めに設定し、開先底部の溶融を目視確認することが欠かせず、表面の見栄えだけで良否を判断すると内部に不良を抱えたままになる。
スラグ巻込み
スラグ巻込みは、溶接金属内部にスラグが混入する欠陥で、X線検査で黒い線状または点状の指示模様として検出される。原因は前パスのスラグ除去不良、運棒速度が速すぎてスラグが溶融池に追いつく、開先角度が狭すぎてスラグが浮上できない、のいずれかだ。
対処法は、各パス終了後にチッピングハンマーとワイヤブラシで入念にスラグを除去し、運棒速度を遅くして溶融池の流動性を確保し、開先角度を広げてスラグの逃げ道を確保することであり、清掃・速度・開先条件は相互に影響するため、どれか一つだけを見直しても改善が限定的にとどまる場合がある。
気孔
気孔は溶接金属内部に閉じ込められたガスが原因で発生する球状の欠陥だ。原因は母材表面の水分・油脂・錆、溶接棒の吸湿、シールド不良のいずれかである。対処法は、母材表面をワイヤブラシで清掃し、油脂はシンナーで拭き取る、溶接棒を乾燥炉で再乾燥する(低水素系は300〜350℃で1時間)、風の強い屋外ではシールド板を設置する、の3つだ。
安全上の注意点
アーク光による眼と皮膚の傷害
アーク光には紫外線と赤外線が含まれ、裸眼で直視すると電光性眼炎(雪目)を引き起こし、症状は数時間後に現れて激しい痛みと流涙が続くため、遮光面または自動遮光面を必ず着用し、遮光度はアーク電流に応じて選択するとともに、周囲の作業者も反射光で眼を傷めることから遮光カーテンやついたてで作業エリアを区切る必要がある。
皮膚も紫外線で日焼けと同様の炎症を起こすため、長袖の作業服と革製エプロンで肌を覆う。首元や手首の隙間から紫外線が入り込むと、局所的な火傷を負う。
感電災害
アーク溶接機の無負荷電圧は交流で80V前後、直流で60〜90V程度あり、湿潤環境や汗で濡れた手では感電の危険がある。電極ホルダーは絶縁部を持ち、濡れた手袋や破損した手袋は使用しない。狭隘な金属容器内での溶接では、絶縁マットを敷き、自動電撃防止装置付きの溶接機を使用する。
溶接機の電源を切る際は、溶接機本体のスイッチだけでなく、分電盤のブレーカも落として二重に確認する必要があり、さらにケーブルの接続部が緩むと接触不良で発熱するため、停止手順と日常点検を別物として扱わず、一体で管理することが事故防止に直結する。
溶接ヒュームと換気
溶接ヒュームは2021年4月施行の特定化学物質障害予防規則により、管理第2類物質に分類された。常時溶接作業を行う屋内作業場では、全体換気装置またはプッシュプル型換気装置の設置が義務づけられる。局所排気装置を使用する場合、フード開口面の制御風速を確保し、6ヶ月ごとに性能点検を実施する。
密閉空間や換気が困難な場所では、電動ファン付き呼吸用保護具(PAPR)または防じんマスク(取替え式防じんマスクRS3またはRL3)を着用し、防じんマスクのフィルタは目詰まりすると吸気抵抗が上がるため、装着の有無だけで安全を判断せず、交換時期まで含めて管理する必要がある。
火災と爆発
アーク溶接のスパッタは半径数メートルまで飛散し、可燃物に着火する。作業エリア周辺の木材・紙類・布類は撤去し、撤去できない可燃物は不燃シートで覆う。消火器は作業者の手の届く位置に配置し、種別は金属火災に対応したものを選ぶ。
密閉容器や配管の溶接では、内部に可燃性ガスや蒸気が残留していると爆発の危険があるため、溶接前に窒素ガスで置換し、可燃性ガス検知器で濃度を測定する必要があり、測定なしで着手すると初回のアークで爆発が起きる事例もあることから、事前確認は作業開始の前提条件となっている。
次にやるべきこと
アーク溶接の基本動作を習得した後、JIS溶接技能者資格の取得を検討する。JIS Z 3801に基づく評価試験資格で、溶接方法・材料・板厚・姿勢の組み合わせで種別が分かれる。受験には実務経験は不要だが、試験片の外観検査と曲げ試験で合格基準を満たす必要がある。
資格取得により、施工管理者や品質管理者に対して技能の証明ができ、現場入場時の資格確認がスムーズになる一方で、大手ゼネコンや造船所では元請がJIS溶接技能者資格を入場条件に指定するケースが増えているため、資格は評価材料にとどまらず、就業機会にも直結している。
また、溶接ヒューム対策の指揮を担う「金属アーク溶接等作業主任者」の技能講習も選択肢になる。2024年1月1日に新設された国家資格で、アーク溶接を常時行う屋内作業場では作業主任者の選任が義務づけられる。受講資格は満18歳以上で、学科12時間・実技3時間の講習を修了すると修了証が交付される。
溶接技能の向上には、姿勢別・材料別の実践が不可欠であり、下向き姿勢で安定したビードが引けるようになったら立向き・横向き・上向き姿勢に段階的に移行し、さらにステンレス鋼やアルミニウム合金の溶接ではTIG溶接やMIG溶接への習熟も求められるため、被覆アーク溶接を基礎として技能の幅を広げていくことになる。
この記事は「溶接の資格ガイド」の関連記事です。溶接に関する体系的な知識はこちらのガイドをご覧ください。









