ノンガス半自動溶接機はフラックス入りワイヤを使い屋外・狭所でも溶接できる機材だが、スパッタ量の多さと送給不良が品質の壁になる。電圧と送給速度のバランス調整が仕上がりを左右する。
ノンガス半自動溶接機で最初に詰まるのはスパッタと送給の2つだ
現場でノンガス半自動溶接機を初めて使う作業者が直面しやすいのは、スパッタの飛散量の多さとワイヤ送給の不安定さであり、ガスシールド式のMAG溶接に慣れた溶接工ほどノンガス機に持ち替えた直後にビード周囲が粗くなり、さらにトーチ内でワイヤが詰まって作業が止まるという回り道に入りやすい。
スパッタが多く飛ぶのは、フラックス入りワイヤ(Flux Cored Wire)の構造に起因する。ワイヤ外周の金属シースの内部にフラックスと脱酸剤を充填した構造であり、アーク熱でフラックスが激しく気化・爆発して溶滴を飛散させるため、ガスシールド式と同じ感覚で電圧を上げるとスパッタ量はさらに増える。
送給不良は、フラックス入りワイヤの柔らかさとライナー内の摩擦抵抗が原因である。ワイヤ外周が薄く変形しやすいため、送給ローラーの圧力が強すぎるとワイヤ表面が潰れてライナー内で引っかかり、逆に圧力が弱いとスリップして送り出せず、ガスシールド用のソリッドワイヤと同じ送給圧では高確率でトラブルが起きる。
なぜノンガス機はガスシールド機と同じ設定では失敗するのか
ノンガス半自動溶接機とガスシールド式のMAG溶接機は、どちらもアーク溶接でワイヤを自動送給する点では同じだが、シールド方法と電流密度の違いが大きいため、見かけが似た機材であっても設定値はそのまま流用できず、使い慣れた数値を持ち込んだだけでは再現しない構造になっている。
シールド方法の違いがアーク特性を変える
ガスシールド式ではCO2またはアルゴン混合ガスをトーチから噴出してアークと溶融池を覆い、大気から遮断する。一方で、ノンガス機ではワイヤ内部のフラックスが燃焼・分解してガスとスラグを生成し、溶融池を保護するため、フラックスの燃焼に酸素が必要な分だけアーク雰囲気は酸化性が強くなり、ガスシールド機よりも電圧が低めでアークが短くなる。
電圧を上げすぎるとアークが長くなり、フラックスが完全に燃焼する前に大気に触れて酸化が進むため、ビード表面が荒れて気孔やスラグ巻き込みが増え、ガスシールド機で使う電圧設定をそのまま適用すると、ほぼ確実にこの状態へ寄っていく。
ワイヤ構造の違いが送給トラブルを生む
ソリッドワイヤは金属の単一材料で硬く、送給ローラーで強く挟んでも変形しにくい。これに対してフラックス入りワイヤは外周の金属シースが薄く、内部がフラックス粉末で充填された構造であるため、送給ローラーの圧力が強いとワイヤ断面が潰れ、潰れた部分がライナー内壁に引っかかって送給が止まる。
送給ローラーの圧力は弱めにする必要があるが、弱すぎるとローラーとワイヤの間でスリップが起きて送り出せず、強すぎればワイヤが潰れ、弱すぎれば送給不足になるため、ガスシールド機用の送給圧設定をそのまま使うと、どちらかの不具合に陥りやすい。
ノンガス半自動溶接機の正しい初期設定手順
ノンガス機を使い始める際は、電圧・送給速度・送給圧の3つを段階的に調整する必要があり、いきなり本溶接に入るのではなく、試し溶接でビードとスパッタの状態を確認しながら設定を詰める流れにした方が、やり直しや条件の迷走を減らしやすく、結果として修正回数の圧縮につながる。
Step 1: フラックス入りワイヤの適合確認
ノンガス半自動溶接機で使えるのは、フラックス入りワイヤのセルフシールドタイプ(Self-Shielded Flux Cored Wire)だけである。JIS Z 3313に規定されるフラックス入りワイヤには、外部ガスを併用するタイプとガス不要のセルフシールドタイプの2種類があり、ガス併用タイプをノンガス機で使うとフラックスだけではシールド不足になって気孔が多発する。
ワイヤのパッケージまたはカタログで「ノンガス用」「セルフシールド」「CO2不要」と明記されているものを選ぶ。ワイヤ径は母材板厚に応じて選定するが、薄板には0.8mm径、中厚板には1.2mm径が標準となる。
Step 2: 送給ローラーとライナーの選択
フラックス入りワイヤ専用の送給ローラーとライナーに交換する。ソリッドワイヤ用のローラーは溝がV字型で硬く、フラックス入りワイヤを潰すが、フラックス入りワイヤ用ローラーは溝が浅いU字型であり、ワイヤ表面を広く支えて変形を防ぐ構造になっている。
ライナーはフラックス入りワイヤ用の大径タイプを使う。ソリッドワイヤ用ライナーは内径が小さく、フラックス入りワイヤが引っかかりやすいためであり、さらにトーチケーブルの長さは3m以内が理想で、長すぎるとライナー内の摩擦抵抗が増えて送給不良が起きる。
Step 3: 送給圧の調整
送給ローラーの圧力を、ソリッドワイヤ使用時よりも弱めに設定する。具体的には、ワイヤを手で引いたときに軽く抵抗を感じる程度まで圧力を下げ、圧力調整ダイヤルを緩めてから少しずつ締めながら送給テストを繰り返す流れで調整した方が、極端な締めすぎと滑りの両方を避けやすい。
送給テストはトーチの先端チップを外し、ワイヤを空送りして確認する。ワイヤが一定速度でスムーズに送り出され、送給中にローラーで滑っていなければ適正であり、ワイヤ表面に送給ローラーの圧痕が深く残っている場合は圧力が強すぎると判断できる。
Step 4: 電圧と送給速度の初期設定
母材板厚に応じた推奨電圧と送給速度をワイヤメーカーのカタログから確認し、その値を初期設定として入力する。ガスシールド機の設定値は参考にならないため、使い慣れた条件を流用するのではなく、必ずノンガス用ワイヤの推奨値を起点に組み立てるべきである。
推奨値は標準的な下向き姿勢・平板を前提にしているため、立向きや横向き姿勢では電圧を若干下げる必要があり、電圧が高いとアークが長くなって溶融池が垂れやすくなるため、姿勢が変わるだけで同じ数値が通用しない場面は少なくない。
Step 5: 試し溶接での音とビード確認
母材の端材を使って試し溶接を行い、溶接音とビード外観を確認する。適正な設定では「ジリジリ」という細かい音が連続し、ビード表面が均一に盛り上がり、スパッタは飛ぶもののビード両脇に細かく散る程度に収まる。
音が「バチバチ」と大きく不規則な場合は電圧が高すぎる。アークが長く不安定になり、スパッタが大粒で遠くまで飛び、ビード表面が凸凹して荒れ、スラグが厚く盛り上がるため、電圧を段階的に下げて再試験する必要がある。
音が途切れてワイヤ先端が母材に突き刺さる場合は、電圧が低すぎるか送給速度が速すぎる状態であり、アークが短くワイヤ溶融が追いつかないため、電圧を上げるか送給速度を下げて調整することになる。
前提条件と必要な道具
ノンガス半自動溶接機を現場で使う前に、電源環境と保護具の準備が必要であり、とくに屋外作業が多いノンガス機では、電源容量と延長ケーブルの選定がそのままアーク安定性と作業継続性に結びつくため、機材本体だけを見ていても条件は整わない。
電源容量と配線の確認
ノンガス半自動溶接機の多くは単相100Vまたは単相200Vで動作する。現場の電源容量が機材の定格入力以上であることを確認し、延長ケーブルが長すぎると電圧降下が起きてアークが不安定になるため、ケーブル長は20m以内に抑え、太い電線径のケーブルを使って電圧降下を減らす。
屋外現場で発電機を使う場合は、インバーター式発電機を選ぶ。エンジン式の汎用発電機は電圧変動が大きく、ノンガス機のアークが安定しない。
保護具と作業環境の整備
ノンガス半自動溶接もアーク溶接の一種であり、アーク溶接特別教育の修了が労働安全衛生法で義務づけられる。無資格での作業は違法である。
溶接ヒュームの発生量はガスシールド機と同等以上であり、2021年4月施行の特定化学物質障害予防規則により、溶接ヒュームは管理第2類物質に指定されているため、屋内作業では全体換気または局所排気が必要となり、作業環境測定と健康診断が事業者に義務づけられ、屋外作業でも風下に立たず風向きを考慮した作業位置の選定が求められる。
スパッタが多く飛ぶため、溶接面と革製の保護手袋・前掛けを着用する。スパッタが衣服に付着すると火災の原因になるため、周囲に可燃物がある場合は防炎シートで覆うか移動させる。
プロと初心者の差が出るのは送給速度と運棒速度の同期だ
ノンガス半自動溶接機の操作で、熟練者と初心者の仕上がりに最も差が出るのは、送給速度と運棒速度のバランスであり、初心者は設定した送給速度に運棒を合わせようとしがちだが、熟練者は逆にビードの状態を見ながら運棒速度を調整し、必要なら送給速度設定も作業中に変える。
ビード形状を見て運棒速度を変える
適正な運棒速度では、溶融池がトーチ直下で一定の大きさを保ち、ビード幅が均一になる。運棒が速すぎると溶融池が小さくなり、ビード幅が狭くなって余盛が高くなり、溶け込みも浅くなるため、開先底部で溶け込み不足が起きやすい。
運棒が遅すぎると溶融池が大きく広がり、ビードが平たく広がる。薄板では溶け落ちの危険が増し、立向き姿勢では溶融池が垂れ落ちてビード表面が荒れる。
熟練者は溶融池の大きさをトーチ越しに常に観察し、池が広がれば運棒を速め、池が小さくなれば運棒を遅くするという調整を無意識に繰り返しており、この微調整が送給速度との同期を保つため、同じ設定値でも仕上がりに差が出る。
送給速度を作業姿勢ごとに使い分ける
ワイヤメーカーの推奨送給速度は下向き姿勢を前提にしている。立向きや上向き姿勢では重力の影響で溶融池が垂れやすくなるため、送給速度を下げて入熱を減らす必要がある。
立向き上進溶接では、送給速度を下向き設定より控えめにし、運棒速度も遅くして溶融池が垂れる前にビードを固める。上向き姿勢ではさらに送給速度を下げ、短いアークで薄く盛るのが基本となる。
下向き姿勢でも、開先底部の初層と表層の仕上げでは送給速度を変える。初層は溶け込み重視で送給速度を上げて入熱を増やし、仕上げ層は外観重視で送給速度を下げてビード表面を整えるため、同じ継手でも層ごとに狙いが異なる。
現場での判断基準は溶接音とスラグの剥がれ方だ
ノンガス半自動溶接機の設定が適正かどうかは、溶接音とスラグの剥がれ方で判断でき、この2つの判断基準を身につけると、試し溶接だけで設定の良否をかなり早い段階で見極められるようになり、数値だけを追って迷う時間を減らせる。
溶接音による電圧の適否判断
適正な電圧設定では、溶接音が「ジリジリ」という細かく規則的な音になる。この音はアークが安定して短く保たれ、ワイヤ溶融と送給速度が同期している証拠である。
電圧が高すぎると音が「バチバチ」と大きく不規則になる。アークが長く不安定で、スパッタが大粒で遠くまで飛び、ビード表面が荒れてスラグが厚く盛り上がって剥がしにくくなるため、電圧を段階的に下げて音の変化を確認する。
電圧が低すぎると音が途切れ、ワイヤ先端が母材に接触して「ガツガツ」と断続的な音が鳴る。アークが短すぎてワイヤ溶融が追いつかず、ビードが不連続になるため、電圧を上げるか送給速度を下げて調整する。
スラグの剥がれ方による入熱の適否判断
ノンガス半自動溶接では、ビード表面にスラグが厚く盛り上がる。適正な入熱設定では、スラグが冷えて固まった後、ハンマーで軽く叩くと一枚の殻のように剥がれ、剥がした後のビード表面は滑らかで気孔やスラグ巻き込みがない状態になりやすい。
入熱が高すぎるとスラグが薄くなり、ビード表面に強く焼き付いてハンマーで叩いても剥がれにくい。無理に剥がすとビード表面が削れて荒れ、ビード両脇にアンダーカットも出やすくなるため、電圧または送給速度を下げて入熱を減らす。
入熱が低すぎるとスラグが厚く盛り上がり、剥がした後のビード表面が凸凹する。溶け込みも浅くなり、開先底部で溶け込み不足のリスクが高まるため、電圧または送給速度を上げて入熱を増やす。
ノンガス機特有のトラブルと対処法
ノンガス半自動溶接機には、ガスシールド機では起きにくい特有のトラブルがあり、その多くは送給系とワイヤ保管の2つに集約されるため、設定だけでなく消耗品管理まで含めて見直さなければ、条件調整だけでは再発を止めきれない場面が残る。
ワイヤ送給中の詰まりと対処
溶接中にワイヤ送給が止まり、送給モーターだけが空転する場合は、ライナー内でワイヤが引っかかっている。送給ローラーの圧力が強すぎてワイヤが潰れたか、ライナー内にフラックス粉末が堆積した可能性が高い。
対処法は、まず送給ローラーの圧力を下げることだが、それでも改善しない場合は、トーチケーブルを溶接機から外してライナーを引き抜き、内部を掃除し、ライナー内壁にフラックス粉末が固着している場合はライナーを新品に交換する。
ライナーの交換頻度はガスシールド機より高く、使用頻度にもよるが3〜6か月ごとの交換が目安であり、摩擦抵抗の増加は送給不良に直結するため、症状が出てからではなく消耗前提で見ておく必要がある。
ワイヤの吸湿とビード不良
フラックス入りワイヤは吸湿しやすく、湿気を吸うとビード内部に気孔が多発する。フラックス内の水分が高温で水蒸気になり、溶融池に閉じ込められて気孔を形成するためである。
ワイヤは密閉容器に乾燥剤とともに保管し、開封後は早めに使い切る。屋外作業で雨や夜露に晒された場合は、使用前に乾燥炉で低温乾燥させ、乾燥温度はワイヤメーカーの指定に従うが、一般には80〜100℃で1〜2時間が目安となる。
吸湿したワイヤを使うと、溶接中に「パチパチ」と爆発音が鳴り、スパッタが異常に多く飛ぶ。ビード内部に気孔が多発し、X線検査で不合格になる。
ガスシールド機への切り替えを判断する基準
ノンガス半自動溶接機は屋外・狭所・高所作業に適する一方で、すべての現場で最適とは限らず、施工条件と後工程の負担を見比べると、ガスシールド式のMAG溶接機への切り替えを検討すべき場面がはっきり表れ、選択の軸は機材の好みではなく総工数に移る。
スパッタ処理工数が多い場合
ノンガス機はスパッタが多く飛ぶため、溶接後のスパッタ除去に時間がかかる。塗装や組立の前工程でスパッタ除去が必須の製品では、スパッタ処理工数が溶接時間を上回る場合もある。
ガスシールド式のMAG溶接機に切り替えると、スパッタ量を大幅に減らせる。屋内作業でガスボンベの設置が可能なら、後工程の負担まで含めて見たとき、ガスシールド機の方が総作業時間を短縮しやすい。
高品質溶接が要求される場合
圧力容器や構造物の重要継手など、X線検査や超音波探傷試験で厳しい品質基準が求められる溶接では、ガスシールド機の方が欠陥発生率を低く抑えられ、ノンガス機はフラックス燃焼によるシールドであるため、気孔やスラグ巻き込みのリスクがガスシールド機より高い。
JIS溶接技能者の評価試験や、日本溶接協会(JWES)の認証試験では、ノンガス機とガスシールド機で合格基準は同じだが、実際の合格率はガスシールド機の方が高い傾向にある。
現場で使えるノンガス機の選定基準
ノンガス半自動溶接機を新たに購入または選定する際は、使用頻度と施工条件に応じて機種を絞り込む必要があり、価格だけで選ぶと現場で使い物にならない事例が多いため、定格使用率と送給機構、さらに設置環境まで含めて見極めるべきである。
定格使用率と作業連続性
溶接機の定格使用率(Duty Cycle)は、一定時間のうち連続して溶接できる時間の割合を示す。定格使用率が低い機種では、連続使用後に十分な冷却時間が必要になるため、長時間連続で溶接する現場では、連続作業に向いた機種を選ぶ。
定格使用率が低い機種を連続使用すると、機内の温度ヒューズが作動して溶接が止まる。冷却待ちで作業が中断し、工程が遅れる。
送給機構の方式と信頼性
ノンガス機の送給方式には、機内送給式とプッシュプル式がある。機内送給式は溶接機本体内に送給モーターがあり、トーチケーブルを通じてワイヤを押し出し、プッシュプル式はトーチ内にも送給モーターがあって、機内とトーチの両方でワイヤを送る。
機内送給式はトーチが軽く取り回しやすいが、トーチケーブルが長いと送給不良が起きやすい。一方で、プッシュプル式はトーチが重くなるものの長いケーブルでも送給が安定するため、高所作業や狭所作業でケーブル長が5mを超える場合はプッシュプル式が適する。
インバーター制御と従来式の違い
インバーター制御の溶接機は、電流と電圧の制御精度が高く、アークが安定する。機体も小型軽量で持ち運びやすいが、従来式のトランス制御機は重く大きい一方で価格が安い。
屋外の移動作業が多い現場ではインバーター機を選び、工場内の固定設置ならトランス機でもよいが、インバーター機は電子部品が多いため粉塵や高温多湿に弱く、運搬性の利点がそのまま耐環境性の強さを意味するわけではないため、定期的な清掃とメンテナンスが必要となる。
次に確認すべきはワイヤとライナーの互換性だ
ノンガス半自動溶接機の設定を正しく調整しても、ワイヤとライナーの組み合わせが適切でなければ品質は安定せず、現場で使う前に使用するワイヤ銘柄とライナー内径の互換性を確認し、予備のライナーと送給ローラーを確保しておく必要があり、送給系のトラブルは突然起きるため交換部品の常備は後手を防ぐための基本動作となる。
この記事は「溶接の資格ガイド」の関連記事です。溶接に関する体系的な知識はこちらのガイドをご覧ください。









