ステンレス溶接機はTIG溶接機が主流だが、薄板は裏波酸化、厚板は溶け込み不足が頻発する。シールドガス流量とタングステン径の組み合わせミスが主因だ。
ステンレス溶接で最初に詰まるのは裏波の変色と溶け込み深さだ
ステンレスの溶接で初心者が最初に直面しやすいのは、表側のビードは見た目が整っているにもかかわらず裏側が真っ黒に変色する問題であり、これは裏波酸化と呼ばれ、溶接中に高温の溶融池が大気中の酸素と反応して酸化皮膜を形成するために起こる現象である。裏波が黒ずむと耐食性が著しく低下し、ステンレスを使う意味そのものが薄れる。
もう一つの壁は溶け込み深さの管理であり、薄板では電流を上げると一瞬で溶け落ちる一方で、厚板では電流不足によって溶け込みが浅くなって母材同士が十分に融合しないため、同じ機械を使っていても板厚が変わるだけで結果が大きく変わる。ステンレスは炭素鋼に比べて熱伝導率が低く、入熱が局所に集中しやすい材料であるため、電流・電圧・溶接速度の3要素を板厚と開先形状に合わせて調整しなければ品質は安定しにくい。
ステンレス溶接機の選定で失敗する原因の大半は、溶接法の選択ミスにある。教科書ではTIG溶接とMAG溶接の両方が紹介されるが、実際の現場では板厚・姿勢・求められる仕上がりによって使い分けが決まり、薄板配管や美観重視の仕上げにはTIG溶接が選ばれる一方で、厚板の構造物や生産性優先の現場ではMAG溶接が採用される。溶接機のスペックと現場条件が食い違えば、技能を積み上げても結果はばらつきやすい。
なぜステンレス溶接は炭素鋼より難易度が高いのか
ステンレスの溶接難易度が高い理由は、熱物性と酸化特性の2点に集約される。まず熱伝導率が炭素鋼の約3分の1しかないため、入熱が溶接部に集中して温度勾配が急になり、その結果として薄板では溶け落ちやすく、厚板では母材内部まで熱が伝わらず溶け込み不足を招く。炭素鋼と同じ感覚で電流を設定すると、欠陥が出やすい。
次に酸化の問題があり、ステンレスは表面に不動態皮膜という薄い酸化クロム層を形成して耐食性を保つ材料だが、溶接中の高温状態では大気中の酸素と激しく反応して黒色や褐色の酸化スケールが発生し、この酸化スケールは不動態皮膜とは異なって耐食性を持たない。裏波側は特に酸素との接触を断ちにくいため、バックシールドと呼ばれる裏面へのシールドガス供給を怠ると変色が出やすく、そのまま使用後の腐食に結び付くことがある。
溶接後の変形も炭素鋼より顕著である。ステンレスは熱膨張率が炭素鋼より大きく、溶接熱による伸縮量も増えるため、溶接線の両側で不均一に加熱・冷却されると角変形や縦収縮が強く出やすく、薄板のパネルや配管では溶接後に全体が波打つように変形して矯正作業が必要になるという回り道も珍しくない。
ステンレス鋼種による溶接性の違い
ステンレスにはオーステナイト系・フェライト系・マルテンサイト系の3系統があり、溶接性はそれぞれ異なる。現場で最も多く扱われるのはオーステナイト系のSUS304とSUS316である。これらは溶接性が良好で、予熱や後熱なしで溶接できる。ただし高温割れ感受性があるため、硫黄や炭素の含有量が高い母材では割れが出やすい。
フェライト系のSUS430は、オーステナイト系に比べて安価である一方、溶接後に粒成長を起こしやすく、溶接熱影響部が脆化しやすい。厚板の構造溶接には不向きで、薄板の装飾用途に使われることが多い。マルテンサイト系のSUS410やSUS420は焼入れ性があるため、溶接後に硬化と割れを起こしやすく、予熱と後熱による温度管理が必須となるため、溶接機の選定前に対象とする鋼種の特性を把握しておかなければ、同じ条件で施工しても結果がそろわない。
ステンレス溶接機の選定手順
Step 1: 溶接法をTIGとMAGから選ぶ
ステンレス溶接機の選定は溶接法の決定から始まる。TIG溶接(Tungsten Inert Gas)は非消耗電極式で、タングステン電極と母材の間にアークを発生させ、必要に応じて溶加棒を供給する。ビード外観が美しく、薄板から中厚板まで対応できるため、配管・タンク・食品機械など仕上がり品質が重視される用途に向く。
MAG溶接(Metal Active Gas)はワイヤを連続供給する消耗電極式であり、アルゴンに炭酸ガスや酸素を混合したシールドガスを使うため、溶着速度が速く生産性が高い一方で、スパッタが多くビード外観はTIGに劣る。したがって、厚板の構造物や大量生産ラインでは採用しやすいが、美観が求められる製品には向きにくい。
板厚が2mm以下の薄板ならTIG溶接一択となりやすく、MAG溶接では溶け落ちのリスクが高いうえに電流を下げすぎると溶け込み不足も起こるため、能率だけで選ぶと手直しが増える。板厚6mm以上の厚板で生産性を優先するならMAG溶接が現実的であり、中間の板厚では仕上がり品質と生産性のどちらを優先するかで判断が分かれる。
Step 2: 電源方式をAC/DCから選ぶ
TIG溶接機の電源はDC(直流)が基本である。ステンレスを含む鉄系金属はDC電源で溶接し、AC(交流)電源はアルミニウムやマグネシウムなど、溶融時に酸化皮膜を形成する非鉄金属の溶接に使われる。ステンレス専用ならDC専用機で足りるが、アルミ溶接にも対応したい場合はAC/DC両用機を選ぶ構成となる。
DC溶接では電極のプラス・マイナスを選べる。ステンレス溶接では電極マイナス(DCEN: Direct Current Electrode Negative)が標準であり、この極性では電子が電極から母材に流れるため、母材側の入熱が大きくなって深い溶け込みが得られる。一方で、電極プラス(DCEP)は電極側の発熱が大きく、タングステン電極が溶けやすいためステンレスには使わない。
Step 3: 出力電流範囲を板厚から決める
TIG溶接機の出力電流範囲は、溶接する板厚の範囲で決める。板厚1mm以下の薄板には最小電流5A程度から調整できる機種が必要であり、板厚10mm以上の厚板では最大200A以上の出力が求められる。汎用的に使うなら、5〜200Aの範囲をカバーする機種を選ぶのが安全である。
電流調整の分解能も見落とせず、薄板溶接では1A単位の微調整が品質を左右し、デジタル制御の機種なら0.1A単位で設定できるものもあるが、アナログダイヤル式では微調整が難しくて薄板で電流が安定しにくい。板厚のバリエーションが広い現場では、最大出力だけでなく低電流域の扱いやすさまで見て機種を選ぶ傾向が強い。
Step 4: パルス機能の有無を判断する
パルス機能は電流を高低に周期的に切り替えることで、入熱を制御しながら溶け込みを確保する機能である。ピーク電流で母材を溶かし、ベース電流で冷却時間を与えることで、薄板の溶け落ち防止や全姿勢溶接での溶融池の垂れ落ち防止に効果があるため、薄板配管や立向・横向姿勢の溶接が多い現場では差が出やすい。
パルス周波数とデューティ比(ピーク電流時間の割合)を調整することで、ビード形状と溶け込み深さを独立にコントロールできる。ただしパルス条件の設定には経験が必要で、初心者には扱いにくい場面もある。まず定常電流で安定した溶接ができる状態を作り、その後にパルス機能を活用する流れが現場では無理が少ない。
Step 5: トーチ冷却方式を空冷・水冷から選ぶ
TIG溶接トーチの冷却方式には空冷式と水冷式がある。空冷式は構造が簡単で取り回しが良いが、連続使用時間に制限があり、高電流での長時間作業には向かない。一般に150A以下の電流で使用される。水冷式はトーチ内に冷却水を循環させるため、200A以上の高電流でも連続使用できる。厚板の溶接や生産ラインでは水冷式が必要になる。
水冷式はクーラーユニットが別途必要であり、設置スペースと初期コストが増えるのみならず、冷却水の補充やフィルター交換などのメンテナンス負荷も高くなるため、薄板中心で断続作業が主体なら空冷式で足りる一方、厚板を連続溶接する場合は水冷式を選ぶほうが運用に無理が出にくい。
Step 6: シールドガス供給系統を確認する
TIG溶接ではアルゴンガスが標準的なシールドガスである。流量調整器(レギュレーター)とガスホースが必要になり、溶接機本体にガス流量計が内蔵されているモデルもあるが、多くは外付けのレギュレーターで流量を調整する。ガスボンベは7立方メートル入りが一般的で、作業場所に応じてボンベスタンドや台車を用意する。
ステンレス溶接では裏波酸化防止のためバックシールドが必要であり、配管溶接ではパージ治具を使って管内にアルゴンガスを流し、板材の突合せ溶接では裏当て材に溝を掘ってガスを流す裏波ガス治具を使うため、トーチ側だけでなくバック側も含めた2系統のガス制御が必要になる現場が多い。
前提条件と必要な道具
TIG溶接機本体に必要な付属品
TIG溶接機を使うには本体以外に複数の周辺機器が必要だ。まずトーチとケーブル一式が要る。トーチには電極ホルダー・コレット・ノズルが含まれ、消耗品として定期交換が必要となる。アースケーブルとクランプも必須で、母材への電気的接続を確保する。
タングステン電極は径1.6mm・2.4mm・3.2mmが一般的であり、電流範囲に応じて使い分ける。純タングステンとセリウム入り・トリウム入りの種別があり、ステンレス溶接ではセリウム入りタングステンが広く使われる。さらに、先端を円錐状に研磨する電極研磨機も、安定したアーク発生を維持するうえで用意しておきたい設備である。
溶加棒はステンレス用TIG溶加棒を母材の鋼種に合わせて選ぶ。SUS304にはY308、SUS316にはY316の溶加棒を使う。棒径は板厚と電流に応じて1.6mm・2.4mm・3.2mmから選定する。溶加棒は表面の油分や酸化皮膜を除去してから使い、アセトンやエタノールで脱脂したうえで、ステンレスブラシで軽く磨くのが基本となっている。
シールドガスとバックシールド治具
アルゴンガスは高純度の溶接用アルゴンを使う。ガスボンベは高圧ガス保安法に基づく取扱いが必要で、転倒防止のチェーンや鎖で固定する。流量調整器は二段式レギュレーターが推奨される。一次圧と二次圧を独立に調整でき、流量の安定性が高い。
バックシールド治具は溶接対象の形状に応じて自作する現場が多く、配管溶接ではゴム栓や発泡ウレタンで管端を塞いでガス導入口だけを残し、板材では裏当て材に溝を掘って銅テープで密閉してガスを流すなど、対象ごとに構成が変わる。市販のバックシールドテープやパージダムもあるが、形状が複雑な場合は現物合わせで治具を作る運用にとどまることも多い。
母材の前処理に必要な工具
ステンレスの溶接部は油分・水分・酸化スケール・塗料を完全に除去しなければならない。油分が残るとポロシティ(気孔)が発生し、酸化スケールが残ると溶け込み不良を招く。脱脂にはアセトンやエタノール、工業用アルコールを使う。ウエスに染み込ませて拭き取り、乾燥させる。
グラインダーとステンレス専用砥石で開先面と溶接線の両側を研磨する。砥石は炭素鋼用と兼用してはならず、炭素鋼の粉が混入するとステンレスの耐食性が損なわれるため、ステンレス用ワイヤブラシも同様に炭素鋼用と分けて管理する必要がある。開先加工にはグラインダーやプラズマ切断、シャーリングを使うが、切断面のバリや酸化層は必ず除去する。
プロと初心者で差が出るポイント
タングステン電極の先端形状管理
TIG溶接でアークの安定性を左右するのはタングステン電極の先端形状である。初心者は電極を丸く削ったり平らにしたりしがちだが、ステンレス溶接では先端を円錐状に尖らせるのが基本であり、先端角度は20〜30度が標準となる。さらに、研磨痕は電極の軸方向に揃え、円周方向の研磨は避ける。そうしないとアークが不安定になり、ビードが蛇行しやすい。
電極の突出し長さもアーク特性に影響する。ノズルから電極先端までの突出しが長すぎるとシールドガスのカバー範囲から電極が外れ、電極が酸化して消耗が早まる。短すぎると視界が悪くなり、ノズルが母材に接触しやすい。突出し長さは5〜7mm程度が目安であり、狭隘部では短く、開放部では長めに調整する。
電極径の選定も重要であり、薄板低電流では細い電極、厚板高電流では太い電極を使うが、電流値に対して電極が細すぎると先端が溶けて母材にタングステンが混入し、太すぎるとアークの集中性が低下して溶け込みが浅くなるため、電流範囲と電極径の対応表を手元に置き、板厚ごとに組み合わせを選ぶ運用が結果の安定に直結する。
シールドガス流量と風の影響への対処
シールドガス流量の不足は裏波酸化の主因だが、過剰もまた問題を招く。流量が多すぎると乱流が発生し、かえって大気を巻き込んでビードが酸化する。標準的な流量は毎分8〜12リットル程度だが、ノズル径や風の有無で調整が必要であり、屋外や換気扇の近くでは流量を増やすだけでなく、風防を設置してガスの流れ自体を安定させる判断が欠かせない。
バックシールドのガス流量管理も同様である。配管内部にガスを充填する際、流量が少ないと酸素が残り、多すぎると溶接開始時にガスが噴き出してアークが乱れるため、パージ開始から溶接開始までの時間を測り、酸素濃度計で管内の酸素濃度が十分に低下したことを確認する方法は再現性が高い。酸素濃度が十分に低下すれば、裏波の変色は防ぎやすい。
溶接速度とビード幅の関係
溶接速度が遅すぎると入熱過多で溶融池が広がり、薄板では溶け落ちる。速すぎると溶け込みが浅くなり、溶加棒の溶着が不十分でビード表面が荒れる。プロは溶融池の形状を観察しながら速度を調整し、溶融池が楕円形に伸びてきたら速度を上げ、丸く留まっていたら速度を下げるという判断を連続して行う。
ビード幅は板厚と開先幅で決まるが、一般に板厚の1.5〜2倍程度が目安である。ビードが狭すぎると溶け込みが深くなりすぎて裏側が盛り上がり、広すぎると表面だけ溶けて内部が未溶着になる。初心者はビード幅を意識せず電流だけで調整しようとしやすいが、速度とトーチ角度を組み合わせて形状を整える段階で差が現れる。
溶加棒の送りタイミングと角度
TIG溶接では溶加棒を溶融池の前縁に送り込むタイミングが品質を左右する。初心者は溶融池の中央や後方に棒を入れてしまい、溶着不良やポロシティを起こしやすい。棒は溶融池の進行方向側に入れ、アークの熱で溶かしながら送る。棒の送り角度は母材に対して15〜20度程度寝かせ、溶融池の表面張力で引き込まれるように動かす。
溶加棒の送り速度も重要であり、送りが遅いと溶着金属が不足してビードが凹み、速いと溶加棒が溶け残って突起が出るため、溶融池の大きさと溶接速度に合わせて一定のリズムで送り込む必要がある。プロは溶融池の色と形状から棒の送り量を判断し、途切れなく連続して送り続けることでビードの均一性を保っている。
現場での判断基準
ビード色と酸化度の判定
溶接後のビード色は酸化の程度を示す指標である。銀白色から淡い金色(ストローカラー)が正常で、シールドガスが適切に機能している証拠となる。青色や紫色が出たら軽度の酸化で、シールドガス不足か流量過剰による乱流が疑われる。黒色や褐色は重度の酸化で、耐食性が著しく低下している。この状態では再溶接が必要となる。
裏波の色も同様に判定する。裏波が銀白色ならバックシールドが成功している。淡い金色までは許容範囲だが、青色以上の変色が出たらバックシールド不足である。配管溶接では、溶接後に管内を目視またはファイバースコープで確認し、裏波の色を記録する。食品機械やクリーンルーム用配管では、裏波の変色は不合格基準となる。
溶け込み深さの外観判定
溶け込み深さは破壊検査でしか正確に測定できないが、現場では裏波の盛り上がりで推定する。突合せ溶接で裏波が均一に盛り上がっていれば、完全溶け込みが得られていると見なしやすい。裏波が出ていない箇所は溶け込み不足の可能性が高い。ただし薄板では、裏波が過剰に盛り上がると内面に凹凸が残り、流体の滞留や洗浄性の低下を招く。
すみ肉溶接では、のど厚が脚長の0.7倍以上確保されているかを断面で確認する。外観からはビードの凹み(コンケーブ)や余盛の高さで推定する。ビードが凹んでいると実際ののど厚が不足している可能性が高い。余盛が過剰だと応力集中が起こり、疲労強度が低下する。
欠陥の種類と原因の切り分け
ステンレス溶接で頻発する欠陥は、ポロシティ・アンダーカット・溶け込み不良・高温割れの4種類である。ポロシティ(気孔)は表面に小さな穴が開く欠陥で、母材や溶加棒の表面に油分や水分が残っていると発生し、シールドガス不足でも起こる。原因の切り分けでは、ビード表面のクレーター部に気孔が集中していればガス不足、溶接線全体に散在していれば前処理不良と判断する。
アンダーカットはビード端部に溝状の欠け込みができる欠陥であり、電流過大か溶接速度過大が原因となる。溶融池が広がりすぎて母材が溶け、溶加棒の供給が追いつかないと発生する。電流を下げるか速度を落とし、溶加棒の送り量を増やすことで対処する。
溶け込み不良は電流不足か速度過大、または開先ルート間隔が狭すぎる場合に起こる。裏波が出ない、ビード表面が盛り上がりすぎるといった外観で判断できる。高温割れはビード中央に縦方向の亀裂が入る欠陥で、硫黄や炭素の多い母材で起こりやすいため、単に電流値だけを疑うのではなく母材条件まで含めて見直す必要がある。溶接入熱を抑え、冷却速度を速めることで防止する。
姿勢別の電流・速度調整
溶接姿勢が変わると、重力の影響で溶融池の挙動が変わる。下向き姿勢は溶融池が安定しやすく、標準的な電流・速度で施工できる。立向き姿勢では溶融池が垂れ落ちやすいため、電流を下げて溶融池を小さく保ち、速度を上げて素早く進める。ウィービング(横揺れ)を入れず、ストリンガービード(直線運棒)で施工するのが基本である。
横向き姿勢は溶融池が下側に流れやすいため、トーチを上向きに傾けて重力に逆らう形でアークを当てる必要があり、電流は下向きより若干低めにしつつ溶加棒を多めに送る。上向き姿勢は最も難易度が高く、溶融池が垂れ落ちないよう電流を大幅に下げて速度を速めるが、パルス機能があればベース電流で冷却時間を確保できるため、条件出しの幅が広がる。
MAG溶接機の選定と設定の違い
ワイヤ送給方式とシールドガス組成
MAG溶接機はワイヤを自動送給する構造で、溶接効率がTIGより高い。ワイヤ送給方式にはプッシュ式・プル式・プッシュプル式がある。プッシュ式は溶接機本体のモーターでワイヤを押し出す方式で、構造が単純だがワイヤが長いと送給が不安定になる。プル式はトーチ内にモーターを内蔵してワイヤを引く方式で、送給安定性が高いがトーチが重くなる。プッシュプル式は両方のモーターを組み合わせ、長いケーブルでも安定した送給が可能だ。
シールドガスはアルゴンに炭酸ガスや酸素を混合したものを使い、アルゴン主体に炭酸ガスを少量混合したガスが一般的である。アークの安定性とビード外観のバランスが良い一方、炭酸ガス比率を上げるとアークが硬くなって溶け込みが深くなるがスパッタが増え、酸素を混合するとアークの集中性は高まるものの酸化が進みやすいという対比がある。
溶接電流と電圧の設定
MAG溶接では電流と電圧の組み合わせでアークの形態が変わる。短絡移行・スプレー移行・パルス移行の3つが主要な移行モードであり、短絡移行は電流・電圧とも低めに設定し、ワイヤ先端が溶融池に周期的に短絡することで溶滴を移行させる。スパッタは多いが、薄板や全姿勢溶接には対応しやすい。
スプレー移行は電流・電圧とも高めに設定し、ワイヤ先端から微細な溶滴が連続して飛び移るため、スパッタが少なくビード外観も良いが、入熱が大きいため厚板の下向き姿勢に限定されやすい。パルス移行は電流をパルス制御することで低電流でもスプレー移行を実現し、薄板から厚板まで全姿勢対応が可能になる一方、条件設定は複雑になる。
ワイヤ径と送給速度の関係
ステンレス用ワイヤはSUS308やSUS316の組成で、径0.8mm・1.0mm・1.2mm・1.6mmが流通している。薄板には細いワイヤ、厚板には太いワイヤを使う。ワイヤ径が細いほど低電流で溶接でき、溶け落ちを防ぎやすいが、送給速度を上げすぎるとワイヤが座屈して送給不良を起こす。
送給速度は溶着速度を決める要素であり、速度を上げると単位時間あたりの溶着量が増えるが、速度と電流のバランスが崩れるとワイヤが溶け残ってビード表面に突起ができたり、逆にワイヤが燃え尽きてアークが不安定になったりする。溶接機のシナジック制御機能があれば、ワイヤ径と板厚を設定するだけで電流・電圧・送給速度が自動調整される。
溶接後の仕上げと品質確認
スパッタ除去とビード研磨
MAG溶接ではスパッタが母材表面に付着する。スパッタは外観不良の原因になるだけでなく、塗装や表面処理の密着性を低下させる。溶接前にスパッタ防止剤を塗布するか、溶接後にチッピングハンマーやワイヤブラシで除去する。ステンレス専用のブラシを使い、炭素鋼用と混用してはならない。
ビード研磨は外観品質を求められる製品で行い、グラインダーにステンレス用フラップディスクを取り付けてビード表面を母材と面一になるまで削るが、研磨後は表面の不動態皮膜が失われているため、酸洗いや不動態化処理を行って耐食性を回復させる必要がある。酸洗いには硝酸とフッ酸の混合液を使い、取扱いには特定化学物質障害予防規則に基づく管理が必要だ。
非破壊検査による内部欠陥の確認
外観検査で判別できない内部欠陥は、非破壊検査で確認する。浸透探傷試験(PT)は表面開口欠陥の検出に有効で、現場で簡便に実施できる。浸透液をビード表面に塗布し、余剰液を拭き取った後、現像剤を吹き付けると欠陥部に浸透液が染み出して可視化される。
放射線透過試験(RT)は内部のポロシティや溶け込み不良を検出できるが、放射線障害防止法に基づく管理区域の設定と作業者の資格が必要である。超音波探傷試験(UT)は厚板の溶接部で広く使われ、斜角探触子を用いて溶接部を走査し、JIS Z 3060に基づく判定基準で合否を判定する流れとなっている。
まず電極研磨と母材脱脂から始めろ
ステンレス溶接機を導入したら、最初にタングステン電極の研磨と母材の脱脂を習慣化すべきである。電極の先端形状が不揃いだとアークが安定せず、どれだけ電流を調整してもビードが乱れ、母材に油分が残っていればポロシティも発生しやすい。機械のスペックより、この2つの前処理が品質を左右する場面は多い。
シールドガスの流量調整と裏波の色確認も初日から徹底したい項目であり、流量計の目盛りを見るだけでなく実際にビードを置いて色を確認し、流量不足なら増やし、乱流が出たら減らすという往復を通じて条件を詰める必要がある。バックシールドのパージ時間を測り、酸素濃度計があれば数値で管理し、初心者のうちは電流や速度よりガス管理と前処理に時間を配分するほうが失敗を減らしやすい。
この記事は「溶接の資格ガイド」の関連記事です。溶接に関する体系的な知識はこちらのガイドをご覧ください。









