TIG溶接機は交流・直流の出力種別とタングステン径の選定で品質が決まる。アルミ・マグネシウムには交流、鉄・ステンレスには直流を使い分け、母材の厚みに応じてタングステン径と電流を調整する。
TIG溶接機の選定で最初に躓くのは出力種別の誤解だ
TIG溶接機を「高精度な溶接ができる万能機」と考えて導入したものの、実際には母材ごとの出力種別を見落としたため、最初の数枚で躓く作業者は珍しくなく、典型例としてはアルミ板に直流専用機でアークを当て、酸化皮膜が除去できずに溶融不良を起こす流れが挙げられる。原因は装置の性能不足ではなく、選定条件の取り違えにある。
TIG溶接機は交流(AC)と直流(DC)で用途が明確に分かれる。アルミニウム・マグネシウム合金には交流、鉄鋼材料やステンレスには直流が適合する。この区別を曖昧にしたまま機種選定を進めると、帳票上は整っていても現場で使えない装置を抱える結果となる。
TIG溶接機の出力種別は、母材表面の酸化皮膜除去能力(クリーニング作用)で決まる。アルミニウムの酸化皮膜融点は2,050℃と母材融点660℃を大きく上回るため、直流のアークだけでは皮膜が残り溶融不良を招く一方で、交流はプラス半サイクルで酸化皮膜を破壊し、マイナス半サイクルで母材を溶融するため、アルミ溶接では欠かせない出力種別となっている。鉄鋼材料では酸化皮膜が薄く融点も低いため、クリーニング作用よりも直流の安定したアーク特性が優先される。
現場では「TIG溶接機=直流専用」と思い込み、後からアルミ対応が必要になって交流TIG溶接機を買い直すという回り道も珍しくなく、初期の想定母材を洗い出さないまま選定を進めることの代償は、導入費だけでなく段取りの停滞や条件出しのやり直しにも及ぶ。最初の選定段階で想定母材を整理し、交流・直流のどちらが必要かを明確にしておくことが、無駄な出費と作業停滞の抑制につながる。
TIG溶接機に必要な構成要素と周辺設備
TIG溶接機は本体だけで溶接が完結しない。シールドガス供給設備、タングステン電極、溶加棒、冷却水系統(高出力機)の4要素が揃って初めて稼働するため、どれか一つを後回しにした導入計画では据付後に稼働できない事態が起こりやすく、しかも不具合の切り分けが遅れるぶん、導入直後の立ち上がりで余計な停止時間を生みやすい。これらの組み合わせミスが、導入後のトラブル原因になる。
TIG溶接機本体
TIG溶接機本体は電源部・制御部・トーチ接続部で構成される。交流専用機・直流専用機・交直両用機の3種類があり、交直両用機が汎用性では勝る。だが、直流専用機に比べて価格は高くなる。
出力容量は母材の厚みで決まり、薄板から中厚板まで対応する場合は200A以上の出力が目安となる。ただし出力容量は使用率(デューティサイクル)と連動するため、連続作業が多い現場では定格電流だけでなく定格使用率まで確認しなければ、帳尻上は足りていても実運用では停止が増え、設備能力の見積もりと現場感覚が噛み合わない状態になりやすい。
シールドガス供給設備
シールドガスはアルゴンまたはヘリウム、あるいはその混合ガスを用いる。鉄鋼・ステンレスには純アルゴン、アルミニウムには純アルゴンまたはアルゴン-ヘリウム混合、銅合金にはヘリウム添加が選ばれる。
ガスボンベ・流量調整器・ホース・トーチ内流路が一連の供給経路を構成し、どこか一箇所でも漏れがあればシールド不足で酸化が発生するため、本体仕様だけを精査しても供給側の点検が粗ければ品質は安定しない。流量調整器はフロート式またはデジタル式があり、微細な流量調整が求められる精密溶接ではデジタル式が有利になる。
タングステン電極
タングステン電極は消耗しにくい非消耗電極だが、先端形状と径の選定は溶接品質に直結する。純タングステンは交流に適し、トリウムまたはセリウム添加タングステンは直流に適する。直流では電極先端を円錐状に研磨し、交流では半球状に整形する。
研磨の方向も重要であり、軸方向に平行な研磨痕を残すとアークが安定しやすい一方で、周方向に荒く研磨するとアークのふらつきが出やすく、見た目には同じような先端形状でもアークのまとまり方に差が出る。タングステン径は母材厚みと電流値で選び、細すぎると過熱で先端が溶融し、太すぎるとアークの集中性が落ちる。
溶加棒
溶加棒は母材と同系統または指定された合金成分のものを使う。鉄鋼には軟鋼用溶加棒、ステンレスには対応するSUS系溶加棒、アルミニウムには4000系または5000系溶加棒が選ばれる。
溶加棒径は母材厚みとビード幅で決まり、細すぎると送り速度が遅れて入熱過多、太すぎると溶融不足で未溶着を招く。さらに、表面に油脂や酸化被膜があると溶融池に巻き込まれて欠陥になるため、使用前にアセトンまたは専用洗浄剤で脱脂する必要があり、材質選定だけでなく表面状態まで含めて管理しなければ品質の再現性は確保しにくい。
冷却水系統(水冷式トーチ)
高出力のTIG溶接では、トーチ内部の発熱を冷却水で排熱する水冷式トーチを使う。冷却水は純水または専用冷却液を循環させ、水質が悪いとトーチ内部に析出物が堆積して冷却能力が低下する。
循環ポンプ・ラジエーター・水温センサーが一体化した冷却ユニットを本体に接続し、水温が規定範囲を超えるとアラームで溶接を停止する機種が多い。空冷式トーチは150A以下の低出力溶接に限定され、それ以上の電流では過熱による部品損傷が起こりやすいため、トーチ単体の定格だけでなく冷却方式と周辺設備を含めた仕様確認が欠かせない。
Step 1: 母材の種類と厚みから出力種別と容量を決める
TIG溶接機の選定は母材の種類で出力種別を、母材の厚みで出力容量を決めることから始まる。この順序を逆にすると、先に電流値だけで候補を絞ってしまい、後から母材適合性の不足が見つかって機種選定の軸がぶれるため、設備選定の議論そのものが何度も振り出しに戻りやすい。
鉄鋼材料(炭素鋼・低合金鋼)とステンレス鋼には直流TIG溶接機を選ぶ。直流は電極マイナス・母材プラスの極性(DCEN: Direct Current Electrode Negative)で使用し、電子が電極から母材へ流れることで母材側に集中的に入熱される。この特性により、溶け込み深さが確保しやすく、ビード形状も安定する。アーク柱も細く集中するため、狭い開先や薄板の精密溶接に向く。
アルミニウム・マグネシウム合金には交流TIG溶接機が必須になる。交流はプラス半サイクルとマイナス半サイクルを繰り返し、プラス半サイクルで酸化皮膜を破壊するクリーニング作用を発揮するため、この作用がないままでは酸化皮膜が溶融池を覆い、溶加棒が母材と融合せずに欠陥を残しやすい。周波数調整機能を持つインバーター式交流TIG溶接機では、周波数を上げてアークの集中性を高め、薄板溶接での入熱制御を可能にする。
母材の厚みから出力容量を決める際は、1mm厚あたりの必要電流を目安にする。鉄鋼材料では1mm厚に対して30〜40A、ステンレスでは25〜35A、アルミニウムでは40〜50Aが経験的な範囲となる。ただしこれは下向き姿勢・突合せ継手の標準条件であり、立向きや上向き姿勢では電流を下げる必要があるうえ、出力容量に余裕を持たせる理由は定格使用率との兼ね合いにもあるため、実際の使用電流が定格出力に対して無理のない範囲に収まる機種を選ぶほうが連続作業でも安定して稼働する。
Step 2: タングステン電極の種別と径を母材に合わせて選ぶ
タングステン電極の種別と径の選定ミスは、アーク不安定と電極消耗の原因になる。直流と交流で求められる電極特性が異なるため、見た目の形状だけを合わせても不十分であり、出力種別に応じた選定が前提となる。
直流TIG溶接には、トリウム添加タングステン電極またはセリウム添加タングステン電極を使う。トリウム添加は電子放出性に優れ、低電流でもアークが安定しやすいが、放射性物質を含むため取扱いに注意が必要だ。セリウム添加は非放射性で電子放出性もトリウムに近く、現場での採用が増えている。電極先端は円錐状に研磨し、先端角度は20〜30度が標準となる。先端角度が鋭すぎるとアークが集中しすぎて母材に穴を開けやすく、鈍角すぎるとアークが広がって溶け込みが浅くなる。
交流TIG溶接には、純タングステン電極またはジルコニウム添加タングステン電極を使う。交流では電極がプラス半サイクルで加熱されるため、融点の高い純タングステンが電極消耗を抑える一方で、先端形状を直流と同じ感覚で扱うと、電極側の熱負荷に先端が耐えきれず不安定化しやすい。電極先端は半球状に整形し、アークを均一に広げることで酸化皮膜のクリーニング作用を面で発揮させる。円錐状に研磨した電極で交流を使うと、先端が過熱で溶融して母材に飛散し、タングステン巻込み欠陥を起こす。
タングステン径は電流値で決まる。直流では、1.6mm径で10〜150A、2.4mm径で150〜250A、3.2mm径で250〜400Aが目安となる。交流ではプラス半サイクルの加熱が大きいため、同じ電流でもやや太い径を選ぶ。細すぎる電極で高電流を流すと先端が溶融してアークが不安定になり、太すぎる電極で低電流を使うとアークの集中性が落ちてビード幅が広がるため、種別と径は別々ではなく一体で判断すべき項目となる。
Step 3: シールドガスの種類と流量を母材と継手形状に応じて調整する
シールドガスの種類と流量は、母材の熱伝導率と酸化しやすさで決まる。ガス流量の過不足は酸化や気孔欠陥を直接引き起こすため、電流設定ばかりに注意が向きやすい場面であっても、溶接条件の中では優先度が高い項目となっている。
鉄鋼材料とステンレス鋼には純アルゴンを使う。アルゴンは不活性ガスで酸化を防ぎ、アークの安定性も高い。流量は8〜12L/分が標準範囲で、トーチ径と母材温度で微調整する。流量が少なすぎると、溶融池周辺の空気巻込みで酸化が進み、ビード表面に黒い酸化スケールが残る。流量が多すぎると、乱流でシールドが乱れ、逆に空気を引き込む結果になる。ガスカップ径が大きいほど層流を保ちやすく、流量を増やしても乱流になりにくい。
アルミニウム・マグネシウム合金には純アルゴンまたはアルゴン-ヘリウム混合ガスを使う。ヘリウムは熱伝導率が高く、アークの入熱を増やして溶け込みを深くする効果があるため、厚板や高速溶接ではアルゴン-ヘリウム混合ガスを選ぶと、入熱不足による未溶着を防ぎやすい。だが、ヘリウムはアルゴンより軽いため、流量を多めに設定しないとシールド効果が落ちる。アルミ溶接では裏波側の酸化も課題であり、継手形状によっては裏波側にもシールドガスを流すバックシールドが必要になる。
銅合金には、アルゴン-ヘリウム混合またはヘリウム主体のガスを使う。銅は熱伝導率が極めて高く、アルゴンだけでは入熱が母材全体に分散して溶融池が形成しにくい。ヘリウム比率を高めることで入熱密度を上げ、溶融池を安定させる。流量は12〜15L/分と多めに設定し、シールド範囲を広く保つ必要があり、母材特性とガス特性の両方を見ないまま条件を決めると、電流設定だけを動かしても狙った溶け込みに届かないことがある。
Step 4: 溶加棒の径と送り方を母材厚みと溶接姿勢に合わせる
溶加棒の径と送り方は、ビード形状と溶け込み深さに影響する。溶加棒の選定ミスは、溶接速度の低下と欠陥発生の両方を招くため、単に母材と同材質を選べば足りるという話にはとどまらない。
溶加棒径は母材厚みで決める。薄板(1〜3mm)には1.6mm径、中厚板(3〜6mm)には2.4mm径、厚板(6mm以上)には3.2mm径が目安となる。細すぎる溶加棒は送り速度が遅れて入熱過多になり、太すぎる溶加棒は溶融不足で未溶着を残す。溶加棒の送り方は、溶融池の前縁に棒先を浸し、溶融したらすぐに引き上げて次の位置に移す動作を繰り返す。溶融池に浸したまま止めると棒が溶けすぎて余盛が高くなり、浸す時間が短すぎると溶加材不足でビードが痩せる。
溶接姿勢でも送り方を変える必要がある。下向き姿勢では重力が溶融池を押し下げるため、溶加棒を斜め前方から供給し、溶融池の広がりを抑える。立向き姿勢では溶融池が垂れやすいため、溶加棒を細かく送って入熱を分散させる。上向き姿勢では溶融池が落下しやすく、溶加棒の送り量を減らして溶融池を小さく保つ。
溶加棒の材質は母材と合わせるのが原則だが、異材溶接や特殊用途では別の材質を選ぶ。ステンレスと軟鋼の溶接にはニッケル基合金溶加棒、アルミニウム合金の溶接には母材より低融点の4000系溶加棒を使う。溶加棒の表面に油脂や酸化被膜があると、溶融池に巻き込まれて気孔や酸化物系介在物を形成するため、使用前にアセトンまたは専用洗浄剤で拭き取る必要があり、材質選定と表面管理は切り離せない。
Step 5: 電流と溶接速度を母材の応答で調整する
TIG溶接機の電流設定は、母材厚み・継手形状・姿勢で決まる初期値を設定した後、溶融池の形状とビード音で微調整する。推奨電流表の数値は平板・下向き姿勢を前提にした理想値であり、実際の現場条件では開先精度や放熱条件も変わるため、溶融池の観察による調整が必須となる。
電流が適正な場合、溶融池は楕円形で縁が明瞭に見え、ビード幅が均一になる。電流が高すぎると溶融池が広がりすぎて母材に穴が開きやすく、ビード裏面に溶け落ちや裏波の膨らみが出る。電流が低すぎると溶融池が小さく浅くなり、溶加棒が母材と融合せずに未溶着を残す。溶接音も判断材料になる。適正電流では「ジー」という連続音が安定して聞こえ、電流過大では「バチバチ」という断続音、電流不足では「プツプツ」という不安定な音になる。
溶接速度は溶融池の大きさで調整する。速度が遅すぎると入熱が集中して溶融池が広がり、ビードが盛り上がって余盛過大になる。速度が速すぎると溶融池が形成される前にトーチが進み、溶け込み不足と未溶着を招く。溶融池の幅がビード幅に対して適度な範囲を保つ速度が目安となる。
立向き姿勢や上向き姿勢では、電流を下向き姿勢より低めに設定する。溶融池が重力で垂れやすいため、入熱を減らして溶融池を小さく保つ必要がある。溶接速度も遅くし、溶加棒の送り回数を増やして溶融池の温度を下げる。パルス電流機能を持つTIG溶接機では、ピーク電流とベース電流を交互に流し、溶融池の凝固と再溶融を繰り返すことで入熱を分散させるため、姿勢変化が大きい条件でも制御しやすくなる。
よくある失敗と対処法
アークが不安定で溶融池が揺れる
アークが不安定になる原因は、タングステン電極の先端形状不良・シールドガス流量不足・母材表面の汚れの3つが大半を占める。直流溶接で電極先端が丸まっている場合、アークが広がって集中性を失い、溶融池が揺れる。電極を再研磨して先端角度を20〜30度に整え、研磨方向を軸に平行に揃えることでアークが安定する。交流溶接で電極先端が円錐状のままだと、先端が過熱で溶融してアークが途切れる。電極を半球状に整形し直すことで解決する。
シールドガス流量が不足すると、溶融池周辺に空気が巻き込まれてアークが乱れる。流量を8〜12L/分の範囲で増やし、ガスカップ径を大きくして層流を保つ。母材表面に油脂・塗装・錆があると、溶融池に巻き込まれてアークが不安定になる。溶接前にグラインダーまたはワイヤーブラシで除去し、アセトンで脱脂することが必要であり、電極だけを見直しても改善しない場合は母材表面まで点検範囲を広げるべきである。
溶接部に黒い酸化スケールが残る
溶接部の酸化スケールは、シールドガス不足または裏波側の酸化が原因だ。ステンレス鋼やアルミニウムでは、溶接直後の高温状態で酸化が進みやすく、シールド範囲が狭いとビード周辺に黒い酸化被膜が形成される。シールドガス流量を増やし、トーチの進行速度を下げて溶融池の冷却時間を確保する。ガスカップ径が小さい場合は、大口径カップに交換してシールド範囲を広げる。
裏波側の酸化は、裏当て材を使わない突合せ継手で発生しやすい。裏波側にもシールドガスを流すバックシールドを設け、溶接中と冷却中の両方で酸化を防ぐ。バックシールド用のガス流量は、表側の半分程度が目安となる。アルミニウムでは裏波酸化が進むと、黒色の酸化被膜が厚く残り、後工程で除去が必要になるため、表側だけを整えても品質管理は完結しない。
ビードに気孔が連続して出る
気孔の原因は、母材表面の水分・油脂・溶加棒の汚れの3つが主体だ。母材表面に水分が残っていると、溶融池で水蒸気が発生して気孔を形成する。溶接前に加熱または乾いた布で拭き取り、湿気の多い環境では予熱を施す。油脂や切削油が残っている場合も同様で、アセトンまたは専用洗浄剤で脱脂する。
溶加棒の表面に酸化被膜や油脂があると、溶融池に巻き込まれて気孔を残す。溶加棒を使用前にステンレスブラシで擦り、表面の酸化被膜を除去する。保管状態が悪く湿気を吸った溶加棒は、予熱して水分を飛ばす。シールドガス流量が多すぎて乱流になる場合も空気巻込みで気孔が発生するため、清掃だけでなく流量条件まで含めて見直さなければ再発を止めにくい。
タングステン電極がすぐに消耗する
タングステン電極の消耗は、電流過大・極性誤り・母材接触の3つが原因になる。直流溶接で電極プラス極性(DCEP)を誤って設定すると、電極側に入熱が集中して先端が溶融する。極性を電極マイナス・母材プラス(DCEN)に戻すことで解決する。交流溶接で電流が高すぎると、プラス半サイクルの加熱で電極先端が溶融し、タングステン粒子が母材に飛散する。電流を下げるか、タングステン径を太くして過熱を抑える。
アークスタート時にタングステン電極を母材に接触させるタッチスタート方式では、電極先端が母材に付着して汚染される。高周波スタート機能を持つTIG溶接機では、非接触でアークを発生させて電極汚染を防ぐ。電極先端が汚染された場合は、研磨して清浄面を露出させる必要があり、消耗の早さを単なる材料不良と決めつけると原因を取り違えやすい。
安全上の注意点
アーク光による目と皮膚の障害
TIG溶接のアーク光は紫外線と赤外線を強く放射し、保護具なしで直視すると電光性眼炎(雪目)を引き起こす。症状は溶接後6〜10時間で現れ、目の痛み・充血・涙が止まらなくなる。溶接用遮光面は遮光度番号10〜13を使い、アークの明るさに応じて選ぶ。自動遮光面は、アーク発生を検知して瞬時に遮光する機構を持ち、作業効率と安全性を両立する。
皮膚も紫外線で火傷を起こすため、長袖の溶接用保護衣と革手袋を着用する。首元や手首の隙間から紫外線が入ると、数時間後に皮膚が赤く腫れる。夏場でも肌を露出させず、溶接用の保護衣で覆うことが必要であり、視覚保護だけで安全対策を終えたつもりになると、作業後に皮膚障害が表面化することがある。
溶接ヒュームと換気
TIG溶接は他の溶接法に比べて発生するヒューム量が少ないが、ステンレス鋼やニッケル基合金の溶接では有害なヒュームが発生する。労働安全衛生法の改正により、2021年4月から溶接ヒュームは特定化学物質障害予防規則(特化則)の管理第2類物質に指定され、事業者には作業環境測定・換気装置の設置・呼吸用保護具の使用・特殊健康診断の実施が義務づけられた。
換気装置は局所排気またはプッシュプル型換気を使い、ヒュームを作業者の呼吸域から排出する。全体換気だけではヒュームが作業場全体に拡散し、濃度を下げる効果が限定的になる。呼吸用保護具は、作業環境測定の結果に基づいて防じんマスクまたは電動ファン付き呼吸用保護具(PAPR)を選定する必要があり、設備対策と保護具対策を切り離して考えると管理の抜けが生じやすい。
高圧ガスの取扱い
シールドガスボンベは高圧ガス保安法の規制対象で、転倒・衝撃・過熱を避ける取扱いが求められる。ボンベは必ず鎖または専用スタンドで固定し、転倒を防ぐ。バルブ開閉時は急激に開かず、ゆっくり回して圧力を安定させる。ボンベを直射日光や溶接火花にさらすと、内圧が上昇して破裂の危険がある。使用後はバルブを完全に閉め、保護キャップを取り付けて保管する。
アルゴン・ヘリウムは不活性ガスで燃焼しないが、密閉空間で漏洩すると酸欠事故を引き起こす。溶接作業を密閉容器内で行う場合は、酸素濃度計で監視し、酸素欠乏に至る前に換気することが必要であり、可燃性がないという一点だけで安全性を判断すると、別の危険を見落としやすい。
次にやるべきこと
TIG溶接機の選定と初期設定が完了したら、実際の母材で試験溶接を行い、電流・ガス流量・溶接速度の適正値を確認する。試験溶接では、ビード外観だけでなく、溶け込み深さと裏波形状を目視またはマクロ試験で確認し、未溶着や溶け込み不足がないかを判定する必要があり、外観良好だけで条件を確定すると内部品質の見落としにつながる。
溶接条件が決まったら、溶接施工要領書(WPS: Welding Procedure Specification)として文書化する。WPSには母材種別・板厚・継手形状・溶接姿勢・電流・電圧・ガス種類・流量・溶加棒径・溶接速度を記載し、作業者が同じ条件で再現できるようにする。JIS Z 3400シリーズやJIS Z 3801に準拠した様式を使うと、品質管理と技能資格の要求仕様に対応しやすい。
溶接工の技能証明が必要な現場では、JIS Z 3821(ステンレス鋼溶接技能者)またはJIS Z 3811(アルミニウム溶接技能者)の資格取得を進める。TIG溶接はアーク溶接特別教育の修了が前提となり、その上で各材料・姿勢・板厚の組み合わせごとに実技試験を受ける。資格取得により、施工品質の保証と現場入場の条件をクリアできる。
定期的なメンテナンスとして、タングステン電極の研磨・ガスホースの漏れ点検・冷却水の水質確認を実施する。電極先端が丸まったまま使い続けるとアーク不安定を招き、ガスホースに亀裂があるとシールド不足で酸化が発生する。冷却水に不純物が混入すると、トーチ内部に析出物が堆積して冷却能力が低下し、トーチ過熱による部品損傷を引き起こす。月次または溶接時間100時間ごとに点検し、消耗部品を交換する運用まで含めて整備しておくと、初期設定の再現性を維持しやすい。
この記事は「溶接の資格ガイド」の関連記事です。溶接に関する体系的な知識はこちらのガイドをご覧ください。









