MIG溶接機は電流とワイヤ送給速度の連動調整が品質を決める。短絡移行とスプレー移行の境界を見極めず電圧を固定すると、スパッタ過多や溶け込み不足が頻発する。
MIG溶接機で最初に詰まるのは移行モードと電流の不一致だ
MIG溶接機を使い始めた作業者が最初に直面しやすい失敗は、電流設定とワイヤ送給速度の組み合わせを外したまま移行モードを決め打ちしてしまうことであり、短絡移行を狙ったつもりでもスプレー移行に入り薄板に穴を開け、反対にスプレー移行を期待しても短絡移行のままで溶け込みが浅く、母材同士が接合しきらないという回り道は珍しくない。
原因は、電流値とワイヤ径の関係を十分に押さえないまま条件を組んでしまう点にある。MIG溶接では電流がある閾値を超えると、アークの形態は短絡移行からスプレー移行へ切り替わる。この境界電流は純アルゴンシールドで鉄系ワイヤ1.2mm径なら約200A付近、アルゴン・炭酸ガス混合なら約180A付近とされるが、実際の現場では母材の厚み、姿勢、ワイヤ突き出し長によって前後する。
教科書では「薄板は短絡移行、厚板はスプレー移行」と整理されるが、現場では板厚だけで判断すると外しやすく、立向き姿勢や横向き姿勢では溶融池の保持力が弱いためスプレー移行では溶け落ちやすい。また、開先が深い場合は奥まで届かせるために電流を上げざるを得ず、その結果として狙った移行モードから外れることもある。
MIG溶接機とMAG溶接機の違いはシールドガスの種類だ
MIG(Metal Inert Gas)とMAG(Metal Active Gas)は、シールドガスが不活性か活性かで区別される。MIGは純アルゴンまたはアルゴン・ヘリウム混合ガスを使い、酸化しやすいアルミニウムやステンレス鋼の溶接に用いる。MAGは炭酸ガスまたはアルゴン・炭酸ガス混合ガスを使い、鉄系母材の溶接に適する。
現場では「ミグ」と呼ばれる溶接機が実際にはMAGシールドで鉄を溶接していることも多く、これは俗称として「ミグ溶接」がワイヤ送給式半自動溶接全般を指すようになったためである。だが、溶接施工要領書(WPS)ではMIGとMAGを厳密に区別する必要があり、ガス種別が違えば溶滴移行の挙動、ビード形状、溶け込み深さが変わるため、施工条件として明記しなければ再現性は保てない。
純アルゴンと混合ガスで移行電流が変わる
純アルゴンシールドでは、スプレー移行への移行電流が高くなる。鉄系ワイヤ1.2mm径で約200A以上が必要になる。アルゴン・炭酸ガス混合ガスでは、移行電流が純アルゴンより低くなる。炭酸ガスの酸化作用がアークを安定化させ、低電流でもスプレー移行が起きやすくなるためである。
この特性を知らずに前の現場と同じ電流のままガスだけ変えると移行モードがずれやすく、純アルゴンで設定した電流のまま混合ガスに切り替えると意図せずスプレー移行に入り薄板を溶かし抜くことがある。逆に、混合ガスで設定した電流のまま純アルゴンに切り替えると短絡移行のままとなり、溶け込み不足に結びつきやすい。
前提条件と必要な機材
MIG溶接機の出力種別と調整機能
MIG溶接機には以下の調整機能が必要だ。
- 電圧調整:移行モードと溶滴サイズを制御する
- ワイヤ送給速度調整:電流値を決定する主要因
- インダクタンス調整:アークの立ち上がり速度と短絡時の電流変化率を制御する
- ガス流量調整:シールド範囲と風防性能を左右する
電圧とワイヤ送給速度は切り離して扱えず、送給速度を上げれば溶融量が増えて電流が上がり、移行モードはスプレー側へ寄っていく。ところが、電圧が低いまま送給速度だけを上げると短絡頻度が高くなってスパッタが増えるため、どちらか一方を固定したまま追い込む調整では安定しにくく、連動させて見直す必要がある。
シールドガスの種類と流量
MIG溶接では以下のガスを使い分ける。
- 純アルゴン:アルミニウム・ステンレス鋼に使用
- アルゴン・ヘリウム混合:アルミニウムの厚板溶接で入熱を増やす
- アルゴン・炭酸ガス混合:鉄系母材に使用し、スプレー移行を比較的低い電流で安定化
- 炭酸ガス:MAG溶接として鉄系母材に使用し、コストは低いが短絡移行が中心となる
ガス流量は毎分10〜20リットルが一般的な範囲だが、屋外や開先深部ではそのままでは不足することがあり、風がある場所では流量を増やし、開先が深い場合はガスカップの形状も含めて見直さなければならない。設定値どおりに流していても、シールドの届き方が悪ければ気孔は発生する。
ワイヤの種類と径
MIG溶接で使うワイヤは母材に応じて選定する。
- 鉄系母材:JIS Z 3312ソリッドワイヤYGW11(軟鋼用)、YGW12(490N級高張力鋼用)
- ステンレス鋼:JIS Z 3321ステンレス鋼溶加棒 Y308L、Y309
- アルミニウム:JIS Z 3232アルミニウム合金溶加棒 A5356、A4043
ワイヤ径は板厚と電流範囲で決める。薄板(3mm未満)には0.9mm径、中板(3〜12mm)には1.2mm径、厚板(12mm以上)には1.6mm径が適する。径を太くすると同じ送給速度でも電流が上がり、スプレー移行に入りやすくなる。
Step 1: 母材の厚みと姿勢から移行モードを決める
最初に行うべき判断は、母材の厚みだけでなく溶接姿勢と継手条件まで含めて、短絡移行とスプレー移行のどちらを使うかを定めることである。短絡移行は薄板、全姿勢、開先ルートギャップが広い場合に向き、スプレー移行は厚板、下向き姿勢、連続ビード形成で力を発揮するため、板厚だけを見て決めると条件の食い違いが起こりやすい。
短絡移行を選ぶ条件
以下の条件に当てはまる場合は短絡移行を選ぶ。
- 板厚3mm以下の薄板溶接
- 立向き・横向き・上向き姿勢での溶接
- ルートギャップが広い突合せ溶接
- 裏当てが無い片面溶接
短絡移行では、ワイヤ先端が溶融池に接触して短絡し、その瞬間に電流が上がってワイヤが溶断され、再びアークが発生するサイクルを繰り返す。このサイクルが1秒間に数十回から百回以上繰り返されることで、少量ずつ溶接金属を母材に載せていく。入熱が小さく溶融池も小さいため、薄板でも溶け落ちにくく、全姿勢で保持しやすいという特徴がある。
スプレー移行を選ぶ条件
以下の条件に当てはまる場合はスプレー移行を選ぶ。
- 板厚6mm以上の厚板溶接
- 下向き姿勢での連続ビード形成
- 高速溶接が求められる場合
- スパッタを最小化したい場合
スプレー移行では、ワイヤ先端から微細な溶滴が連続的に飛び出し、母材に向かって霧状に移行するため短絡が起きにくく、電流変動が小さい。そのためスパッタは極めて少なく、溶け込みも深く、連続ビードの外観は整いやすいが、溶融池が大きくなるので立向き姿勢や横向き姿勢では垂れやすく、制御は難しくなる。
Step 2: ワイヤ送給速度と電圧の組み合わせを設定する
移行モードが決まったら、次はワイヤ送給速度と電圧を組み合わせて設定する段階に入る。ワイヤ送給速度が電流を決め、電圧がアーク長と溶滴のサイズを左右するため、この2つの釣り合いが崩れると移行モードが意図から外れ、スパッタ過大や溶け込み不足といった不良に直結する。
短絡移行の設定範囲
短絡移行では、ワイヤ送給速度を抑えて電流を低く保つ。鉄系ワイヤ1.2mm径・アルゴン・炭酸ガス混合ガスの場合、送給速度は毎分3〜6メートル程度、電流は約100〜180Aの範囲に収まる。電圧は低めに設定し、アーク長を短く保つ。
電圧が高すぎると、短絡が起きる前にアークが伸びすぎて溶滴が大きくなり、スパッタが増える。反対に電圧が低すぎると、ワイヤが母材に突き刺さるように短絡してビードが盛り上がりやすい。適正な電圧範囲は溶接機の特性とワイヤ径で変わるため、試し溶接を行い、送給速度との釣り合いを見ながら詰める必要がある。
スプレー移行の設定範囲
スプレー移行では、ワイヤ送給速度を上げて電流を高く保つ。鉄系ワイヤ1.2mm径・アルゴン・炭酸ガス混合ガスの場合、送給速度は毎分7メートル以上、電流は約180A以上が必要になる。電圧は高めに設定し、アーク長を長く保つ。
電圧が低いまま電流だけを上げると、短絡移行とスプレー移行の境界付近で移行モードが不安定になり、「グロビュール移行」と呼ばれる大粒溶滴移行に入ることがある。この状態ではスパッタが大量に飛び、ビード外観も崩れやすいため、電圧を適切に上げてアーク長を確保し、スプレー移行を安定させる必要がある。
Step 3: インダクタンス調整でスパッタ量を制御する
インダクタンスは短絡時の電流立ち上がり速度を調整する機能であり、設定値の違いがスパッタ量とアークの感触に直結する。インダクタンスを大きくすると電流の立ち上がりは緩やかになって短絡時の電流ピークが抑えられ、スパッタは減るが、反対に小さくすると立ち上がりは急峻となり短絡は素早く解消される一方、スパッタは増える傾向が見て取れる。
短絡移行でのインダクタンス調整
短絡移行では、インダクタンスを大きめに設定してスパッタを抑えるのが基本だ。ただし、インダクタンスを大きくしすぎると短絡が解消されるまでの時間が長くなり、ワイヤが母材に貼り付いたような状態になる。この状態では溶融池が広がりすぎ、ビードが平たくなりやすい。
適正なインダクタンスは、短絡音が「ジジジ」という細かい音から「パチパチ」という軽快な音に変わる境界付近にあり、音が「バチバチ」と大きくなった場合は小さすぎると判断しやすい。数値だけで追い込むのでは足りず、アーク音とビードの反応を合わせて見ることが、設定を外さないための実際的な見方となる。
スプレー移行でのインダクタンス設定
スプレー移行では短絡が起きないため、インダクタンスの影響は小さい。ただし、アーク起動時や終端クレーター処理時には短絡が起きることがあり、その際のスパッタを抑えるためにインダクタンスを中程度に設定する。
Step 4: ガス流量とトーチ角度を調整する
シールドガス流量が不足すると大気が溶融池に巻き込まれて気孔が発生し、流量が過剰でもガス流が乱れて逆に大気を巻き込むため、適正流量は毎分10〜20リットルの範囲を基準にしつつ、トーチ角度、ワイヤ突き出し長、風の有無まで含めて見直す必要がある。数値だけ合っていても、実際のシールドが崩れていれば不良は止まらない。
トーチ角度の基本
MIG溶接のトーチ角度は、進行方向に対して前進法または後退法で決める。前進法ではトーチを進行方向に傾け、溶融池を押すように進む。ビードが広く浅くなり、薄板溶接に適する。後退法ではトーチを進行方向とは逆に傾け、溶融池を引くように進む。ビードが狭く深くなり、厚板溶接に適する。
トーチの傾斜角度は約10〜15度が標準であり、傾斜が大きすぎるとシールドガスが母材に当たる角度が浅くなってシールド範囲が狭くなる。そのため、見かけ上はガスを十分に流していても、気孔が出やすい状態に入ることがある。
ワイヤ突き出し長の影響
ワイヤ突き出し長(スティックアウト)は、コンタクトチップ先端からワイヤが飛び出している長さを指す。突き出し長が長いと、ワイヤが抵抗加熱されて溶融量が増え、入熱が減る。突き出し長が短いと、抵抗加熱が減って入熱が増える。
標準的な突き出し長は10〜15mm程度であり、短絡移行では短めに、スプレー移行では長めに設定することで入熱を調整できる。だが、突き出し長が長すぎるとワイヤが不安定になってアークが揺れ、電流設定だけでは整わない不安定さが残るため、トーチ操作と合わせて管理する必要がある。
よくある失敗と対処法
スパッタが過大に飛散する
スパッタが大量に飛ぶ原因は、電圧が低すぎるか、インダクタンスが小さすぎるか、母材表面に油分や錆が残っているかのいずれかである。電圧を段階的に上げてアーク長を伸ばし、インダクタンスを大きくして電流立ち上がりを緩やかにする。それでも減らない場合は、母材をグラインダで清掃して油分と酸化皮膜を除去する。
気孔が発生する
気孔の原因は大気の巻き込みであり、ガス流量不足、トーチ角度不良、母材清掃不足のいずれかが引き金になる。ガス流量を毎分15リットル以上に上げ、トーチ角度を垂直に近づけてシールド範囲を広げる必要がある。さらに、母材表面の油分、錆、塗装を完全に除去しておかなければ条件を整えても再発しやすい。
アルミニウム溶接では、母材表面の酸化皮膜がガス源になるため、溶接直前にステンレスブラシで酸化皮膜を除去し、間を置かずに溶接を開始する必要がある。アルミニウムは大気中で瞬時に再酸化するため、清掃後の放置時間が長いと、同じ設定でも気孔が再発しやすい。
溶け込み不足
溶け込み不足は、電流が低すぎるか、送給速度が遅すぎるか、母材の清掃不足が原因で起こる。ワイヤ送給速度を上げて電流を増やし、溶融池の温度を上げる。それでも浅い場合は、後退法に切り替えて溶融池を押し込むように進む。
厚板溶接で溶け込みが不足する場合は、予熱を加えて母材温度を上げる方法もある。母材温度が上がると溶融池の流動性が増し、溶け込みは深くなりやすい。
ビードが盛り上がりすぎる
ビードが盛り上がりすぎる原因は、送給速度が速すぎるか、溶接速度が遅すぎるかのどちらかであり、送給速度を下げて溶融量を減らすか、溶接速度を上げて単位長さあたりの溶接金属量を減らすことで、余盛過多の状態を是正できる。
安全上の注意点
アーク光による眼の障害
MIG溶接のアーク光は、紫外線と赤外線を強く放射する。遮光度10〜12の溶接面を使用し、アーク光を直視しない。周囲の作業者も遮光カーテンや遮光眼鏡で保護する。
溶接ヒュームの吸入防止
MIG溶接では、ワイヤと母材が溶融する際に金属ヒュームが発生する。労働安全衛生法に基づき、溶接ヒュームは特定化学物質に指定されている。事業者は作業環境測定と呼吸用保護具の選定を行う義務がある。作業者は指定された保護具を正しく装着し、換気装置が稼働していることを確認する。
高圧ガスボンベの転倒防止
シールドガスボンベは高圧ガス保安法の適用を受けるため、ボンベは必ず鎖やボンベスタンドで固定して転倒を防ぎ、バルブ開閉は手で行って工具を使わず、ガス漏れを発見した場合はボンベバルブを閉じて換気し、供給業者に連絡する流れを徹底する必要がある。
次にやるべきこと
MIG溶接機の基本設定が理解できたら、次に進むべきは溶接施工要領書(WPS)の読み取りと実践である。WPSには母材種別、板厚、開先形状、溶接姿勢ごとに、電流、電圧、送給速度、ガス種別、予熱温度が記載されているため、作業者はその条件に従って試験溶接を行い、X線透過試験や曲げ試験で溶接部の健全性を確認する流れを押さえる必要がある。
次のステップとして、JIS Z 3841(半自動溶接技術検定における試験方法及び判定基準)に基づく溶接技能者資格の取得を検討する。資格試験では、指定された板厚、姿勢、開先形状で溶接を行い、外観検査と放射線透過試験で合否が判定される。試験に合格すれば、溶接施工要領書に記載された条件を実務で再現する能力があることを示せる。
実務では、母材の汚れ、開先精度、組立精度が溶接品質に直接影響するため、開先面のグラインダ清掃、仮付け溶接の配置、ルートギャップの管理といった前工程の品質管理が溶接の成否を左右する。溶接機の設定だけを追い込んでも不良は残ることがあり、前工程との連携を含めた品質管理体制を構築することが、不良率を下げる現実的な方法となっている。
この記事は「溶接の資格ガイド」の関連記事です。溶接に関する体系的な知識はこちらのガイドをご覧ください。









