鉄とステンレスの溶接は異種金属接合の一種で、熱膨張差・炭素移動・酸化挙動の違いを制御しなければ剥離や気孔が発生する。

鉄とステンレスの溶接で最初に詰まるのは溶加材の選定だ

鉄とステンレスの溶接で現場が最初につまずくのは母材に対して適切な溶加材を選んでいない場合であり、鉄側の炭素がステンレス側に拡散すると粒界腐食を起こし、さらにステンレス側のクロムが鉄側へ十分に拡散しない条件では境界部に脆化層も生じるため、溶接直後の外観に問題がなくても使用開始から数ヶ月で剥離や割れが境界部から進行することがある。

教科書では「異種金属溶接はバター法で中間層を作る」とされるが、実際の現場では薄板や小物部品にそこまで工程を割けない場合が多く、板厚3mm以下の突合せや隅肉溶接では、適切な溶加材を初回から選定し、一層で仕上げる前提で条件を詰める場面が多い。

基本方針は明快である。ステンレス側に合わせた溶加材を使い、入熱は最小限に抑える。この前提を外したまま汎用の軟鋼用溶接棒やワイヤを使うと、境界部の組成が不安定になり、後工程や使用開始後に不具合が表面化しやすくなる。

鉄とステンレスの溶接に必要な前提条件と道具

母材の組み合わせと溶接法の適合性

鉄とステンレスの溶接では、母材の組み合わせによって溶接法と溶加材の選択肢が変わる。以下の組み合わせが実務上の主要パターンだ。

  • 軟鋼(SS400等)とオーステナイト系ステンレス(SUS304, SUS316等)
  • 軟鋼とフェライト系ステンレス(SUS430等)
  • 低合金鋼(SM490等)とオーステナイト系ステンレス

軟鋼とオーステナイト系ステンレスの組み合わせが最も多く、この場合は被覆アーク溶接、TIG溶接、MAG溶接のいずれも適用できる一方で、フェライト系ステンレスは熱膨張係数が鉄に近いため残留応力を抑えやすく薄板の突合せに向き、さらに低合金鋼を使う場合は予熱や後熱が必要になることもあるため、設備制約によっては施工そのものが難しくなる。

溶加材の選定基準

鉄とステンレスの溶接では、以下のいずれかの溶加材を使う。

  • オーステナイト系ステンレス用溶接棒(JIS Z 3221:E309、E309L、E310)
  • オーステナイト系ステンレス用TIGワイヤ(JIS Z 3321:Y309、Y309L、Y310)
  • オーステナイト系ステンレス用MAG/MIGワイヤ(JIS Z 3323:YS309、YS309L、YS310)

E309およびY309はクロム含有量が高く、炭素移動による粒界腐食を抑制する組成となっている。E309Lは炭素含有量を低減したタイプであり、溶接後の熱処理ができない場合や耐食性を優先する場合に使われる。E310はニッケル含有量がさらに高く、熱膨張差が大きい組み合わせや高温使用環境で選定される。

現場で起こりやすい失敗は、ステンレス用として一般的な308系溶加材をそのまま使うことだ。308系は同種ステンレス同士の溶接には適しているが、鉄との異種金属溶接では境界部の炭素拡散を十分に抑えにくく、短期では問題が出なくても長期使用で剥離が起こりやすくなる。

必要な機材とシールドガス

被覆アーク溶接の場合は、インバータ式交直両用アーク溶接機でDCEP(直流正極性)を使う。交流では溶込みが不安定になり、境界部に気孔が残りやすい。

TIG溶接の場合は、交直両用TIG溶接機で直流DCEN(直流負極性)を選び、タングステン電極はセリウム入りまたはランタン入りを使い、シールドガスは純アルゴンを用いるが、流量は母材の板厚と溶接姿勢で変わり、過剰に流すと乱流が発生して酸化欠陥につながるため、機材選定だけでなくガス条件の詰めも同時に必要となる。

MAG溶接の場合は、シールドガスにアルゴンと炭酸ガスの混合ガスを使う。純炭酸ガスではステンレス側の酸化が進み、溶接金属の耐食性が低下する。ワイヤ送給装置も条件に含まれ、4ロール式を使ってステンレスワイヤの座屈を防ぐ。

鉄とステンレス溶接の手順

Step 1: 母材表面の清掃と開先加工

鉄とステンレスの溶接では、母材表面の油脂・錆・酸化皮膜を完全に除去することが前提となり、鉄側は錆が残りやすく、ステンレス側は不動態皮膜が溶込みを妨げるため、施工前の清掃精度が不足すると、その影響が溶接中ではなく検査段階や使用開始後に欠陥として現れる。

鉄側の清掃には、ワイヤブラシまたはグラインダで錆を落とし、アセトンまたは専用脱脂剤で油脂を拭き取る。ステンレス側は、ステンレス専用ブラシで表面を研磨し、同様に脱脂する。

ブラシは使い分ける。鉄用のブラシをステンレスに使うと、鉄粉が付着して「もらい錆」を起こすためだ。

開先加工は板厚に応じてI形、V形、レ形のいずれかを選び、板厚3mm以下ならI形開先で突合せ、板厚6mm以上ならV形開先でルートギャップを設定するが、このギャップは単に溶込みを確保するだけでなく母材の熱膨張差を逃がす役割も持つため、狭すぎる設定では溶接後に残留応力が集中して割れにつながる。

Step 2: 溶接条件の設定

鉄とステンレスの溶接では入熱を最小限に抑える必要があるが、単純に低くすればよいわけではなく、入熱が過大なら鉄側の炭素がステンレス側へ拡散して粒界腐食の起点を作り、反対に不足すれば溶込み不良や融合不良で境界部の強度が落ちるため、条件設定はかなり狭い範囲で追い込むことになる。

被覆アーク溶接の場合、溶接電流は母材の板厚と溶接棒の直径で決まる。板厚6mmでE309の3.2mm径溶接棒を使う場合、電流は母材の組み合わせと姿勢に応じて調整する。

運棒速度も重要である。鉄側の溶込みとステンレス側の入熱を同時に管理するため、一定のリズムを崩さないことが前提となる。

TIG溶接の場合、電流は母材の板厚と溶加棒の径で決まり、板厚3mmでY309の2.4mm径溶加棒を使う場合は母材の熱容量に応じて調整し、アーク長は母材表面から2〜3mm程度に保ちながら、溶加棒の送り速度は溶融池の広がりに合わせて変えていく。

MAG溶接の場合、電流とワイヤ送給速度は連動して設定する。板厚4mmでYS309の1.2mm径ワイヤを使う場合、短絡移行モードで電流とワイヤ送給速度を調整する。

トーチ角度は進行方向に対して前進法で10〜15度傾ける。溶融池の流れを乱さないためである。

Step 3: 溶接の実施と層間管理

鉄とステンレスの溶接では最初の1層目が最も重要であり、この層で境界部の組成がほぼ決まるため、後続層でビード外観を整えることはできても冶金的な不整合までは修正できず、初層での狙い位置、アークの安定、入熱管理の三つがその後の安定性を左右する。

被覆アーク溶接では、溶接棒の先端を鉄側とステンレス側の境界線上に置き、アークを安定させてから運棒を開始する。ウィービングは最小限にとどめ、直線運棒または小さなクレセント運棒で進める。

層間温度も管理対象だ。母材の熱膨張差を考慮し、高温になりすぎる前に次層を置く必要がある。

TIG溶接では、タングステン電極の先端を境界線上に位置させてアークを発生させ、溶融池が形成されたら溶加棒を送り込み、鉄側とステンレス側の両方が同時に溶けるように入熱を調整するが、溶加棒は溶融池の先端へ一定量ずつ供給する前進法を基本としたほうが、入熱の偏りを抑えやすい。

MAG溶接では、トーチの狙い位置を境界線上に固定し、ワイヤの溶融速度と送給速度が釣り合うように電流を調整する。短絡移行ではアーク音が一定のリズムになるよう運棒速度を調整し、スプレー移行では溶融池の広がりに応じて速度を変える。

Step 4: 多層盛りとバター法の使い分け

板厚が厚い場合や高応力環境で使う場合は、多層盛りまたはバター法を適用する。

多層盛りは、1層目で境界部を固め、2層目以降で溶接金属の厚みを確保する方法であり、各層の入熱を均等に管理しつつ層間温度が規定範囲内に収まるよう待機時間を設ける必要があるうえ、層間清掃を怠るとスラグや酸化物が残って次層との融合不良を引き起こすため、単層より管理項目が明らかに増える。

バター法は、ステンレス側に先にステンレス用溶加材で肉盛りし、その上から鉄側と溶接する方法だ。この方法では境界部の組成勾配を緩やかにでき、炭素拡散や熱膨張差の影響を分散できる。

ただし、施工には時間がかかる。薄板では適用しにくい。

Step 5: 溶接後の検査と仕上げ

溶接後は外観検査、浸透探傷試験(PT)、超音波探傷試験(UT)のいずれかで欠陥を確認する必要があり、鉄とステンレスの境界部は目視では健全に見えても内部に気孔や融合不良が残ることがあるため、外観だけで合否を決めると不具合を取りこぼしやすい。

外観検査では、境界部の色調変化を確認する。ステンレス側が過度に変色している場合は入熱過多で耐食性が低下している可能性があり、鉄側に黒い酸化物が残っている場合は清掃不足と判断できる。

浸透探傷試験は表面開口欠陥を検出するために行い、境界部に微細な割れやピットがあれば使用開始後に進展して剥離へつながることがある一方で、超音波探傷試験は内部の融合不良や気孔を確認するために用いるため、板厚が厚い場合や高応力環境で使う継手では省きにくい工程となる。

仕上げ研磨は、ステンレス側の耐食性を回復させるために行う。グラインダで溶接ビードを平滑にし、最後にステンレス用研磨材で表面を仕上げる。

ここでも使い分けが必要だ。鉄用の研磨材を使うと、鉄粉が付着して「もらい錆」を起こす。

鉄とステンレス溶接でよくある失敗と対処法

境界部の剥離と炭素移動

鉄とステンレスの溶接で最も多い失敗は、溶接後数ヶ月から数年で境界部から剥離が進行することであり、その主因は鉄側の炭素がステンレス側に拡散して粒界に炭化クロムを形成し、耐食性を低下させる点にあるため、表面の外観が整っていても長期安定性まで担保されたとは言えない。

対処法は、溶加材に309系または310系を使い、入熱を最小限に抑えることだ。308系を使った場合や入熱が過大だった場合は、溶接後に境界部を切断して再溶接するか、バター法で中間層を追加する必要がある。

溶込み不良と融合不良

鉄とステンレスの溶接では、熱伝導率の違いから片側だけが溶けて反対側が融合しない失敗が起きやすく、ステンレスは熱伝導率が鉄の約3分の1であるため、同じ入熱でも溶融速度が揃わず、境界部に未溶着部が残りやすい。

対処法は、溶接電流を母材の熱容量に応じて調整し、トーチの狙い位置を境界線上に固定することにある。MAG溶接では短絡移行モードを使ってアークが両側の母材に均等に当たるよう運棒速度を調整し、TIG溶接では溶加棒の送り方を工夫して両側が同時に溶けるタイミングで供給する。

ステンレス側の変色と耐食性低下

溶接後にステンレス側が青や茶色に変色している場合は、入熱過多または酸化が原因であり、変色部では不動態皮膜が破壊されて耐食性が低下しているため、外観不良として処理せず機能低下として扱う必要がある。

対処法は、シールドガスの流量を適正に保ち、裏面にもバックシールドガスを供給することだ。TIG溶接では純アルゴンを使い、MAG溶接ではアルゴン+炭酸ガス混合ガスを使う。

変色が発生した場合は、ステンレス用研磨材で変色層を除去し、酸洗またはパッシベーション処理で不動態皮膜を再生する。

溶接後の割れと残留応力

鉄とステンレスは熱膨張係数が異なるため、溶接後の冷却過程で残留応力が境界部に集中して割れが入る場合があり、とくに拘束が強い継手や板厚が厚い条件ではその傾向が強まるため、施工前には継手条件と拘束状態をあわせて確認しておく必要がある。

対処法は、予熱と後熱で冷却速度を制御し、残留応力を分散させることだ。予熱温度は母材の組み合わせと板厚に応じて設定し、後熱は溶接直後に保温材で覆って徐冷する。

拘束を緩和するために、溶接順序を工夫して逆ひずみを与える方法も使われる。

鉄とステンレス溶接の安全上の注意点

溶接ヒュームの発生と換気管理

鉄とステンレスの溶接ではクロム・ニッケルを含む溶接ヒュームが発生し、労働安全衛生法および特定化学物質障害予防規則では溶接ヒュームは特定化学物質第2類に分類されているため、単に換気設備を置くだけでは不十分であり、作業環境管理と健康管理を一体で組み立てる必要がある。

屋内作業では全体換気または局所排気装置を設置し、作業環境測定を定期的に実施する。屋外作業でも風向きによってヒュームが作業者に流れ込む場合は、電動ファン付き呼吸用保護具(PAPR)または防じんマスクを着用する。

シールドガスの取扱いと高圧ガス保安

TIG溶接およびMAG溶接では、アルゴンまたは炭酸ガスを高圧ガス容器から供給し、高圧ガス保安法では容器の転倒防止、バルブの開閉操作、残圧管理が規定されているため、溶接条件の設定と同じ重みでガス供給設備の取扱いも管理しなければならない。

容器は必ず鎖またはバンドで固定し、転倒や衝撃を防ぐ。バルブ開閉は緩やかに行い、急開による圧力サージを避ける。

使用後は必ず残圧を残してバルブを閉める。逆流や異物混入を防ぐためだ。

保護具の選定と電光性眼炎の防止

TIG溶接およびMAG溶接では、被覆アーク溶接よりも強い紫外線が発生し、遮光度番号はJIS T 8141で規定されているため、TIG溶接では電流値に応じて9〜13番を選び、作業条件に合わない遮光設定を避ける必要がある。

遮光度が不足すると電光性眼炎を起こし、溶接後数時間から痛みと異物感が発生する。自動遮光溶接面を使う場合は、遮光速度と感度を作業環境に合わせて調整し、始動時の紫外線暴露を防ぐ。

次にやるべきこと:溶接条件の記録と施工要領書への反映

鉄とステンレスの溶接は、同種金属の溶接と比べて条件の幅が狭く、再現性の確保も難しいため、現場で品質の高いビードが得られた場合は、その時の溶接条件を記録し、施工要領書に反映して次回以降のばらつきを抑える必要がある。

記録すべき項目は、母材の組み合わせ・板厚・開先形状・溶加材の種別・溶接法・電流・電圧・運棒速度・シールドガス流量・層間温度・予熱温度・後熱条件だ。これらを次回の同種溶接で再現できれば、試行錯誤の時間を大幅に短縮できる。

JIS Z 3400シリーズ(溶接施工方法の確認試験方法)では、異種金属溶接の施工条件を確認するための試験手順が規定されており、元請から施工要領書の提出を求められる場合は、この規格に基づいて試験を実施し、機械的性質と耐食性を確認する流れとなる。

鉄とステンレスの溶接では、初層で境界部の組成と入熱を適正に管理できれば後続層は通常のステンレス溶接に近い感覚で進めやすい一方で、初層で狙い位置や熱の入れ方を外すと後工程で修正できる範囲はかなり限られるため、施工要領書へ反映すべき記録も初層の条件を中心に整理しておくべきである。