鋳物を溶接するには、母材の黒鉛や内部欠陥が原因で割れやすいため、専用の溶接棒と予熱・後熱が前提となる。FC材にはニッケル棒、FCD材には鋳鉄専用棒を使い分ける。

鋳物の溶接で最初につまずくのは、溶接棒の選択ミスと割れの発生だ

鋳物の溶接で最初に問題になりやすいのは溶接棒の選び方と溶接後の割れであり、鋳造品の内部には黒鉛や鋳巣が分散しているため、一般鋼と同じ感覚で入熱と冷却を扱うと、母材側に想定以上の応力が生じて破断に至ることがある。

ねずみ鋳鉄(JIS G 5501 の材料記号 FC)は片状黒鉛が応力集中を起こしやすく、球状黒鉛鋳鉄(JIS G 5502 の材料記号 FCD)でも溶接部の急冷によって白銑化が起きるため、母材の材質に応じた溶接棒の選定だけで済む話ではなく、予熱・後熱の温度管理まで含めて施工条件を組み立てる必要がある。

教科書では「鋳鉄用溶接棒を使えばよい」と整理されがちだが、実務では母材の黒鉛形状、肉厚、溶接箇所にかかる応力の有無によって使う溶接棒も施工条件も変わり、予熱を省けばビード直下に割れが入り、後熱を怠れば冷却後に遅れ割れが出るという回り道は珍しくない。

したがって、鋳物の溶接は「母材の材質」「溶接棒の種類」「予熱・後熱の温度」を切り離さずに判断する作業となっている。

鋳物の溶接に必要な前提条件と道具

母材の確認と溶接棒の分類

鋳物を溶接する前には母材の材質確認が欠かせず、ねずみ鋳鉄(FC)と球状黒鉛鋳鉄(FCD)では溶接棒の選び方が異なるうえ、FC材は片状黒鉛が熱応力で割れの起点になりやすく、FCD材は球状黒鉛によって比較的応力集中を起こしにくい一方で、溶接部が急冷されると白銑化してもろくなる。

鋳鉄用溶接棒は、大きく分けて以下の3種類がある。

  • ニッケル系溶接棒:純ニッケルまたはニッケル合金の芯線を使い、溶接金属が軟らかく仕上がる。FC材の補修溶接で割れを防ぐために使われる。
  • 鉄系溶接棒:鉄を主成分とした芯線で、溶接金属の硬度が高く、機械加工が難しい。主に厚肉の鋳物や、溶接後に加工しない箇所に使う。
  • 銅系溶接棒:銅または銅合金の芯線を使い、溶接金属が軟らかく削りやすい。予熱温度を低く抑えられるため、薄肉の鋳物に向く。

実務上、FC材の補修にはニッケル系溶接棒が選ばれることが多く、その理由は溶接金属の膨張係数が母材に近く、冷却時の収縮応力が過大になりにくいことに加え、溶接後の加工性も確保しやすいためであり、補修後に仕上げ工程が控える場合ほど選定の意味が大きくなる。

溶接機と予熱・後熱の熱源

鋳物の溶接には被覆アーク溶接機が広く使われ、溶接棒の径は母材の肉厚に応じて選び、薄肉には直径2.6mmまたは3.2mm、厚肉には4.0mm以上を使う。溶接電流は、溶接棒の径とメーカーの推奨値に従って設定する。

予熱と後熱にはガストーチ、電気炉、誘導加熱装置のいずれかを使い、薄肉の鋳物や局所的な補修ではガストーチで部分的に加熱する方法が現実的だが、厚肉の鋳物や全体に応力がかかる製品では、電気炉で製品全体を均一に加熱し、そのまま炉内で徐冷する方法のほうが温度差を抑えやすい。

温度測定と冷却速度の管理

予熱温度と後熱温度を正確に管理するには、接触式温度計または非接触式の放射温度計を使う。放射温度計は、測定対象の放射率を鋳鉄の値(一般に0.6〜0.8程度)に設定しないと誤差が大きくなる。

冷却速度の管理には溶接後の製品を保温材で覆う方法があり、薄肉の鋳物では溶接部の周囲を断熱シートや断熱繊維で囲んで急冷を防ぎ、厚肉の鋳物では炉内で時間をかけて徐冷するという使い分けになり、同じ鋳物でも肉厚差が大きい場合は局所だけでなく全体の温度勾配まで見ておく必要がある。

Step 1:母材の材質を確認し、溶接棒の種類を決める

溶接を始める前に母材の材質を確認し、鋳物の図面や仕様書にJISの材料記号が記載されていればそれをもとに判断するが、記載がない場合は母材の破断面を観察し、FC材の破断面は灰色で片状黒鉛が見え、FCD材の破断面はやや明るく球状黒鉛が点在する点を手掛かりにする。

材質が判明したら溶接棒を選び、FC材の補修溶接にはニッケル系溶接棒を使い、FCD材には鉄系またはニッケル系の溶接棒が選ばれる。鉄系溶接棒は溶接金属の強度が高く、応力がかかる箇所に向く。一方で、ニッケル系溶接棒は溶接金属が軟らかく、溶接後に機械加工する場合に向く。

溶接箇所が薄肉で、予熱温度を抑えたい場合は銅系溶接棒を選び、銅系溶接棒は予熱なしまたは低温予熱で施工できるため局所的な補修に便利だが、溶接金属の色が銅色になるため、外観が問題になる製品には使えない。

Step 2:溶接箇所を清掃し、開先を整える

溶接箇所の表面には鋳肌の砂、油脂、塗装などが付着していることが多く、これらが残ると溶接欠陥の原因になるため、グラインダーまたはワイヤブラシで清掃し、油脂が付着している場合は有機溶剤で拭き取ってから清掃する流れとなる。

溶接する部分に割れや鋳巣がある場合は、グラインダーまたはアークエアガウジングで欠陥部を削り取り、削り取った後の開先はV字形またはU字形に整える。開先の角度は、母材の肉厚と溶接棒の径に応じて調整する。薄肉の場合は開先角度を小さくし、厚肉の場合は大きくする。

開先の底に鋳巣や割れの先端が残っていないかを目視で確認し、残っている場合はさらに削り取るという確認作業が欠かせず、この見落としがあると、後工程でいくら丁寧にビードを積んでも欠陥を抱え込んだまま封じ込める形になり、補修のやり直しにつながる。

Step 3:予熱を行い、母材の温度を均一にする

予熱は、溶接部とその周囲を加熱して溶接時の冷却速度を遅くし、割れを防ぐための作業であり、予熱温度は母材の材質と肉厚によって決まり、FC材の予熱温度は一般に300℃から600℃の範囲で設定され、FCD材の予熱温度はFC材よりやや低めに設定される。

予熱は溶接部を中心に広い範囲を加熱する必要があり、加熱範囲が狭いと溶接部と未加熱部の温度差が大きくなって熱応力で割れやすくなるため、ガストーチで局所的に加熱する場合は溶接部から半径で肉厚の3倍以上の範囲を加熱する。

予熱温度は、接触式温度計または放射温度計で測定する。放射温度計を使う場合は、測定対象の表面に黒色の塗料を薄く塗るか、放射率の設定値を鋳鉄に合わせる。予熱後は、温度が均一になるまで数分間保持する。

Step 4:溶接を行い、ビードの形状を管理する

予熱が完了したら溶接を開始し、溶接棒はメーカーの推奨する電流値で使う必要があるが、電流が低すぎると溶け込みが浅くなり、高すぎると母材が過熱されて割れやすくなるため、設定値の妥当性は施工条件と合わせて見直すべきである。

溶接は、短いビードを断続的に置く「パス溶接」で進める。一度に長いビードを置くと、溶接金属の収縮応力が集中して割れやすくなる。1パスの長さは、肉厚にもよるが、一般に50mm以下に抑える。1パスを置いたら、溶接棒を離し、ビードが冷えるまで待つ。

ビードの形状は盛り上がりが均一で、スラグが完全に除去されていることを確認し、スラグが残ると次のパスで巻き込まれて欠陥になるため、ビードを置くたびにワイヤブラシまたはチッピングハンマーで除去する。

開先が深い場合は複数のパスに分けて積層し、各パスの間隔は前のパスが冷えすぎない程度に短くする必要があり、パス間の時間が長すぎると母材温度が下がって次のパスで急冷状態に近づくため、割れを招きやすい施工になってしまう。

Step 5:後熱を行い、徐冷する

溶接が完了したら後熱を行い、後熱は溶接部を再加熱して応力を緩和し、徐冷することで遅れ割れを防ぐ作業であるため、後熱温度は予熱温度と同じかやや低めに設定するのが基本となる。

後熱は溶接直後に行い、溶接部が冷えてから再加熱すると、かえって熱応力が発生して割れることがあるため、ガストーチで加熱する場合は溶接部全体を均一に加熱し、指定の温度に達したら加熱を止める。

後熱後は製品を保温材で覆って自然冷却させ、冷却速度は母材の肉厚と材質によって調整し、厚肉の鋳物では炉内で数時間から一晩かけて徐冷し、薄肉の鋳物では断熱シートで覆って数十分から数時間かけて冷却する。

冷却中は、製品を動かしたり、冷たい場所に置いたりしない。急冷すると、溶接部に遅れ割れが発生する。

よくある失敗と対処法

溶接ビードの直下に割れが入る

溶接ビードの直下に割れが入るのは、予熱温度が低すぎるか、予熱範囲が狭すぎることが原因であり、溶接部の冷却速度が速すぎると溶接金属の収縮応力で母材が引っ張られて割れる。

対処法は予熱温度を高くし、予熱範囲を広げることであり、予熱範囲は溶接部から半径で肉厚の3倍以上を目安にし、予熱温度が適切かどうかは溶接後にビードの周囲に割れがないかを浸透探傷試験または磁粉探傷試験で確認する。

溶接金属が硬くて機械加工できない

溶接金属が硬すぎるのは、鉄系溶接棒を使ったか、溶接部が急冷されて白銑化したことが原因であり、鉄系溶接棒の溶接金属はマルテンサイト組織になりやすく、硬度が高い。

対処法はニッケル系溶接棒または銅系溶接棒に変えることであり、ニッケル系溶接棒は溶接金属がオーステナイト組織になって比較的軟らかく、予熱温度を高めにし、後熱を確実に行うことで白銑化を防ぐことにつながる。

溶接後に遅れ割れが発生する

溶接直後は問題なかったのに、数時間から数日後に割れが発生するのは遅れ割れであり、溶接部の急冷で水素が溶接金属に吸収され、時間をかけて拡散して割れを起こす。

対処法は後熱を確実に行って徐冷することであり、後熱温度は予熱温度と同じかやや低めに設定し、冷却速度を遅くする。さらに、溶接棒の保管状態も影響し、溶接棒が湿気を吸うと溶接時に水素が発生しやすくなるため、開封後は乾燥剤と一緒に保管する。

溶接部に鋳巣が露出する

溶接中に、母材の内部にあった鋳巣が露出することがある。鋳巣が大きい場合は、溶接金属で埋めても内部に空洞が残り、強度が不足する。

対処法は、溶接前に鋳巣の位置と大きさを超音波探傷試験またはX線透過試験で確認し、鋳巣が大きい場合はグラインダーまたはアークエアガウジングで削り取ってから溶接し、鋳巣が深い場合は複数のパスに分けて積層して各パスで鋳巣を完全に埋めることである。

安全上の注意点

溶接ヒュームと換気

鋳鉄用溶接棒の被覆剤にはフッ化物や金属酸化物が含まれ、溶接時に発生するヒュームを吸い込むとじん肺や金属熱の原因になるため、溶接作業は換気が十分な場所で行うか局所排気装置を使い、屋内で溶接する場合は呼吸用保護具を着用する。

労働安全衛生法および特定化学物質障害予防規則では、溶接ヒュームの管理が義務づけられている。作業場所の換気、作業者の保護具着用、作業環境測定を確実に実施する。

予熱・後熱時の火傷と火災予防

予熱と後熱にはガストーチまたは電気炉を使い、ガストーチを使う場合は火炎が周囲の可燃物に触れないようにし、予熱中の製品は高温になるため素手で触れず、耐熱手袋と保護メガネを着用する必要がある。

予熱・後熱後の製品は、高温のまま保温材で覆って徐冷する。保温材は不燃性のものを使い、可燃物の近くに置かない。消防法では、溶接作業時の防火措置が定められているため、作業場所の防火管理者の指示に従う。

感電と溶接機の接地

被覆アーク溶接機は交流または直流の電源を使うため、感電を防ぐには溶接機の接地を確実に行う必要があり、ホルダーと母材が濡れた状態で触れると感電のおそれがあることから、雨天時や湿度の高い場所では絶縁用の保護具を着用する。

溶接棒の交換時は、溶接機の電源を切る。ホルダーに電圧がかかったまま溶接棒を交換すると、感電することがある。

次にやるべきこと——溶接技能の向上と資格取得

鋳物の溶接は、母材の材質と溶接棒の選択、予熱・後熱の温度管理が結果を左右する作業であり、ここまでの手順を押さえておけば、FC材とFCD材の基本的な補修溶接に取り組むための土台は整う。

次のステップは溶接技能の向上と資格取得であり、被覆アーク溶接の技能は厚生労働省が所管する技能検定制度の「溶接技能士」で評価され、溶接技能士には基本級・専門級・上級の区分があり、それぞれ実技試験と学科試験に合格する必要がある。

鋳物の溶接に特化した資格はないが、溶接技能士の実技試験には鋳鉄溶接の課題が含まれることがある。技能検定の詳細は、中央職業能力開発協会の公式サイトで確認できる。

溶接技能をさらに高めるには、溶接部の非破壊検査の知識も必要になり、浸透探傷試験、磁粉探傷試験、超音波探傷試験、X線透過試験の原理と手順を学ぶことで、溶接欠陥の早期発見と対策が可能になり、非破壊検査の資格には一般社団法人日本非破壊検査協会が認定する「非破壊検査技術者」がある。

鋳物の溶接では、溶接棒の選択も予熱温度の設定も母材の材質と状態の把握が前提であり、そこを曖昧にしたまま施工条件だけを追っても、安定した補修品質には結びつきにくい。