産業用ロボットの特別教育は、ロボットの可動範囲内で作業する労働者に対し、事業者が就業前に受けさせる法定の教育だ。対象になるのは「教示等」と「検査等」の2つの業務で、それぞれ必要な教育の科目と時間が別に定められている。どちらに当たるかは条文の除外規定で決まるため、作業の呼び名ではなく作業の中身で判断する必要がある。このページでは、法的根拠・対象業務の切り分け・除外される場合・科目と時間・受講方法・修了証の扱いまでを、法令の一次情報に沿って整理する。
この記事のポイント
- 産業用ロボット特別教育は、労働安全衛生法第59条第3項にもとづく法定教育だ。国家資格や免許ではなく、事業者が労働者に受けさせる教育に当たる。
- 対象業務は「教示等」(労働安全衛生規則第36条第31号)と「検査等」(同第32号)の2つで、教育の科目と時間はそれぞれ別に定められている。
- 教示等は駆動源を遮断して行うものを除く。電源を落として行うティーチングは、条文上この号の対象から外れる。
- 検査等は運転中に行うものに限る。運転を止めて行う検査・修理・調整は、条文上この号の対象から外れる。
- 教育時間は、教示等が学科7時間以上+実技3時間以上=計10時間以上、検査等が学科9時間以上+実技4時間以上=計13時間以上だ(安全衛生特別教育規程 第18条・第19条)。
主要データ
- 法的根拠:労働安全衛生法第59条第3項/労働安全衛生規則第36条第31号(教示等)・第32号(検査等)
- 教育時間:教示等 計10時間以上/検査等 計13時間以上(安全衛生特別教育規程 第18条・第19条)
- 位置づけ:国家資格・免許ではなく、事業者が行う法定の特別教育
- 費用:公的な料金基準はなく、実施機関により異なる
制度・日程・費用は年度や実施機関で動く。最終確認日は末尾に置いた。
産業用ロボット特別教育とは——法的根拠
労働安全衛生法第59条第3項は、危険または有害な業務に労働者を就かせるとき、事業者に特別教育を行うことを義務づけている。その「危険又は有害な業務」の中身を列挙しているのが労働安全衛生規則第36条だ。同条の柱書は「法第五十九条第三項の厚生労働省令で定める危険又は有害な業務は、次のとおりとする。」と定め、産業用ロボットに関する業務は第31号と第32号に置かれている。
義務を負うのは事業者だ。特別教育は、試験に合格して取得する免許や技能講習とは仕組みが違い、定められた科目と時間を受講して「修了」する教育に当たる。国家資格ではない。
- 出典:労働安全衛生規則(第36条 柱書・第31号・第32号)|e-Gov法令検索|https://laws.e-gov.go.jp/law/347M50002000032
対象業務(1) 教示等——駆動源を遮断して行うものは除く
労働安全衛生規則第36条第31号が定める「教示等」は、産業用ロボットの可動範囲内で行う、マニプレータの動作の順序・位置・速度の設定、変更または確認だ。いわゆるティーチングがこれに当たる。
この号には除外規定が付いている。駆動源を遮断して行うものを除く、というものだ。ロボットの駆動源を切った状態で動作を教え込む作業は、条文上この号の対象から外れる。逆に言えば、駆動源を入れたまま可動範囲内に入って教示する作業が、特別教育を必要とする中心の場面になる。
対象になるのは可動範囲内で作業する者だけではない。可動範囲内で教示等を行う労働者と共同して、可動範囲外で機器の操作を行う者も同じ号に含まれる。教示する者と操作盤を扱う者が組んで作業する場合、両方が対象になる。
- 出典:労働安全衛生規則(第36条第31号)|e-Gov法令検索|https://laws.e-gov.go.jp/law/347M50002000032
対象業務(2) 検査等——運転中に行うものに限る
労働安全衛生規則第36条第32号が定める「検査等」は、産業用ロボットの可動範囲内で行う検査、修理、調整、およびこれらの結果の確認だ。ただし、教示等に該当するものは除かれる。第31号と第32号は、同じ可動範囲内の作業でも別の号として切り分けられている。
こちらにも限定が付く。運転中に行うものに限る、というものだ。運転を止めた状態で行う検査・修理・調整は、条文上この号の対象から外れる。教示等が「駆動源を遮断していれば除外」であるのに対し、検査等は「運転中のものだけが対象」という形で、除外の向きが逆になっている。ここを取り違えると、必要な教育の判断を誤る。
検査等も、可動範囲内で作業する労働者と共同して可動範囲外で機器操作を行う者を含む。
- 出典:労働安全衛生規則(第36条第32号)|e-Gov法令検索|https://laws.e-gov.go.jp/law/347M50002000032
「産業用ロボット」の定義と除外されるもの
条文上の産業用ロボットは、労働安全衛生規則第36条第31号のなかで定義されている。マニプレータおよび記憶装置を有し、記憶装置の情報にもとづきマニプレータの伸縮、屈伸、上下移動、左右移動もしくは旋回の動作、またはこれらの複合動作を自動的に行うことができる機械を指す。
この定義には「研究開発中のものその他厚生労働大臣が定めるものを除く」という除外が付いている。除外の具体的な範囲は別の告示に委ねられており、本記事では条文の表現をそのまま示すにとどめる。自社の設備が除外に当たるかどうかは、告示の本文と所管(労働基準監督署等)の解釈にもとづく判断になるため、該当の判断は所管に確認すること。
- 出典:労働安全衛生規則(第36条第31号)|e-Gov法令検索|https://laws.e-gov.go.jp/law/347M50002000032
教育の科目と時間
科目と時間は、安全衛生特別教育規程(昭和47年労働省告示第92号)の第18条と第19条で定められている。両条は昭和58年労働省告示第49号で追加されたものだ。教示等と検査等では時間が異なる。
教示等の特別教育(第18条)=計10時間以上
区分 | 科目 | 時間 |
|---|---|---|
学科 | 産業用ロボットに関する知識 | 2時間以上 |
学科 | 産業用ロボットの教示等の作業に関する知識 | 4時間以上 |
学科 | 関係法令 | 1時間以上 |
学科 | 小計 | 7時間以上 |
実技 | 産業用ロボットの操作の方法 | 1時間以上 |
実技 | 産業用ロボットの教示等の作業の方法 | 2時間以上 |
実技 | 小計 | 3時間以上 |
合計 | 10時間以上 |
検査等の特別教育(第19条)=計13時間以上
区分 | 科目 | 時間 |
|---|---|---|
学科 | 産業用ロボットに関する知識 | 4時間以上 |
学科 | 産業用ロボットの検査等の作業に関する知識 | 4時間以上 |
学科 | 関係法令 | 1時間以上 |
学科 | 小計 | 9時間以上 |
実技 | 産業用ロボットの操作の方法 | 1時間以上 |
実技 | 産業用ロボットの検査等の作業の方法 | 3時間以上 |
実技 | 小計 | 4時間以上 |
合計 | 13時間以上 |
両者の差は、学科の「産業用ロボットに関する知識」(教示等2時間以上/検査等4時間以上)と、実技の作業方法の科目(教示等2時間以上/検査等3時間以上)に出ている。検査等のほうが合計で3時間長い。
教示等と検査等の両方を担当する作業者は、それぞれの教育を受ける必要がある。実施機関が両方をまとめた日程を組んでいる場合もある。
- 出典:安全衛生特別教育規程(第18条・第19条。昭和47年労働省告示第92号、昭和58年労働省告示第49号で追加)|厚生労働省 法令等データベース|https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=74085000&dataType=0
受講方法の類型
特別教育は事業者の責任で実施できる教育だが、外部の機関に委託する形も広く使われている。受講の入口はおおむね次の3つに分かれる。
- 各都道府県の労働基準協会など、安全衛生教育を広く扱う団体の講習
- ロボットメーカーおよび関連会社が自社の実機を使って行う講習
- 学科部分をオンラインで提供する機関の講習
学科をオンラインで受けられる機関もあるが、規程の第18条・第19条は実技科目を定めているため、実技を含めた受講形態がどうなるかは実施機関ごとに異なる。申込先の案内で、学科と実技の実施方法・使用する実機の種類を確認するのが確実だ。自社設備と異なる機種で受講しても教育としては成立するが、実機の操作感が違う点は織り込んでおくとよい。
費用
産業用ロボット特別教育に公的な料金基準はない。受講料は実施機関ごとの設定になる。
金額の目安として、実施機関が公表している例を1件挙げる。ICS SAKABE(アイ・シー・エス・サカベ)は、教示等コース2日間を44,000円、教示等と検査等を合わせたコース3日間を66,000円として公表している(2026-08-05 確認)。これは1機関の公表値であり、他機関の水準を示すものではない。相場としてうのみにせず、申込先の最新の案内で確認すること。
- 出典:安全衛生教育|ICS SAKABE|https://www.icssakabe.com/service/anzen_kyoiku/ |参照2026-08-05
修了証と履歴書への書き方
特別教育を修了すると、実施した機関または事業者から修了証が交付される。産業用ロボット特別教育は労働安全衛生法第59条第3項にもとづく法定の教育であり、修了の事実は履歴書に書ける。
書き方は、正式名称に「修了」を添える形になる。教示等なら「産業用ロボットの教示等の業務に係る特別教育 修了」、検査等なら「産業用ロボットの検査等の業務に係る特別教育 修了」と記す。「合格」「取得」ではなく「修了」と書く点に注意したい。特別教育は試験に合格する資格ではないためだ。同じ理由で、国家資格の欄にまとめて書くのは避けたい。
溶接ロボットとの関係
溶接ロボットのティーチングは、可動範囲内で駆動源を入れたままマニプレータの動作を教え込む作業であれば、労働安全衛生規則第36条第31号の教示等に当たる。溶接の現場でロボットを扱う場合も、判断の枠組みは製造業の他工程と変わらない。ティーチングの3方式と、特別教育が必要になる条件の詳細は溶接ロボットのティーチングとはで扱う。
溶接工からロボットを扱う側へ移る場合の仕事の中身と、必要になる教育の組み合わせは溶接ロボットオペレーターで整理している。アーク溶接そのものの特別教育は労働安全衛生規則第36条第3号の別の業務で、アーク溶接特別教育が対象になる。溶接に関わる資格の全体像は溶接の資格のピラーで、キャリアの順路はキャリアナビで確認できる。
出典・集計方法・最終確認日
- 法的根拠・対象業務(教示等・検査等の定義、除外規定、産業用ロボットの定義):労働安全衛生規則(第36条 柱書・第31号・第32号)|e-Gov法令検索|https://laws.e-gov.go.jp/law/347M50002000032 |参照2026-08-05
- 科目と時間(教示等 計10時間以上/検査等 計13時間以上):安全衛生特別教育規程(第18条・第19条。昭和47年労働省告示第92号、昭和58年労働省告示第49号で追加)|厚生労働省 法令等データベース|https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=74085000&dataType=0 |参照2026-08-05
- 費用の実例:安全衛生教育|ICS SAKABE|https://www.icssakabe.com/service/anzen_kyoiku/ |参照2026-08-05
- 集計方法:対象業務・除外規定・科目・時間は、いずれもe-Gov法令検索および厚生労働省の一次情報にもとづく。産業用ロボットの定義に付く「厚生労働大臣が定めるもの」の除外範囲は別告示に委ねられているため、本記事では条文の表現のみを示し、具体的な除外基準は記載していない。受講費用は公的な料金基準がないため、相場は示さず、公表値を確認できた実施機関1件のみを出典付きで記載した。
- 最終確認日(lastVerified):2026-08-05 集計:MONOSCOPE編集部









