溶接ヒュームは、金属をアーク溶接する作業などで加熱により発生する粒子状物質だ。2020年4月に公布され2021年4月から適用された法改正で、特定化学物質障害予防規則(特化則)の特定化学物質(管理第2類物質)に位置づけられた。発がん性はIARCグループ1(ヒトに対する発がん性)とされ、継続して行う屋内作業場では濃度測定・換気・保護具・健康診断などが事業者に義務づけられている。このページでは、規制の根拠と時系列、屋内作業場での事業者の義務、働く側が受ける健康診断までを、厚生労働省の一次情報で整理する。

この記事のポイント

  • 溶接ヒュームは2020年4月公布・2021年4月適用の法改正で、特化則の「特定化学物質(管理第2類物質)」になった。金属アーク溶接等作業で加熱により発生する粒子状物質を指す。
  • 有害性の柱は2つ。発がん性がIARCグループ1、そしてマンガン化合物による神経機能障害(酸化マンガン)・神経機能障害および呼吸器系障害(三酸化二マンガン)だ。
  • 継続して行う屋内作業場では、濃度の個人ばく露測定・換気・呼吸用保護具・特殊健康診断・清掃などが事業者の義務になる。濃度の目安はマンガンとして0.05mg/m³
  • 面体を有する呼吸用保護具を使う場合、1年以内ごとに1回のフィットテストが要る(令和5年4月1日施行)。
  • 屋外作業場は義務の範囲が異なる。本ページは屋内・継続作業場を主軸に整理し、屋外は末尾の屋外版リーフレットへ委ねる。

主要データ

  • 規制の適用開始 2021年4月1日(公布は2020年4月22日/令和2年政令第148号・厚生労働省令第89号)
  • 区分 特化則の特定化学物質(管理第2類物質)
  • 発がん性 IARCグループ1(ヒトに対する発がん性)
  • 濃度測定の目安 マンガンとして0.05mg/m³(この値以上等で換気風量の増加その他の措置と再測定)
  • フィットテスト 1年以内ごとに1回(面体を有する呼吸用保護具。令和5年4月1日施行)
  • 記録の保存 測定記録は当該作業方法を用いなくなった日から3年/健康診断個人票は5年

数値・条文は末尾の出典に置いた。制度は改正で動くため、実務判断は所管の最新情報で確認すること。

溶接ヒュームとは何か——特化則の管理第2類物質

溶接ヒュームは、金属アーク溶接等作業で加熱により発生する粒子状物質だ。金属アーク溶接等作業とは、金属をアーク溶接する作業、アークを用いて金属を溶断・ガウジングする作業、その他溶接ヒュームを製造・取り扱う作業を指す。熱源がアークであることが前提で、燃焼ガスやレーザービームなどを熱源とする溶接・溶断・ガウジングは含まれない。

性状は、溶接で生じた蒸気が空気中で凝固した固体粒子で、粒径は0.1〜1μm程度だ。この細かさゆえに空気中を漂い、吸い込まれやすい。特化則ではこの溶接ヒュームを特定化学物質(管理第2類物質)として扱う。

規制がかかるかどうかは作業場の性質でも変わる。ここでの「屋内作業場」とは、建屋側面の半分以上に壁・羽目板等の遮蔽物がある場所、またはガス・蒸気・粉じんが内部に滞留するおそれがある場所を指す。一方、建築中の建物内部などで、同じ場所で繰り返し行わない作業は「継続して行う屋内作業場」に含まれない。以下で扱う濃度測定などの義務は、この「継続して行う屋内作業場」を対象にしたものだ。

なぜ規制されたか——発がん性とマンガンの健康影響

規制の理由は、溶接ヒュームの有害性にある。厚生労働省のリーフレットが挙げるのは次の2点だ。

ひとつは発がん性で、溶接ヒュームはIARC(国際がん研究機関)の分類でグループ1、すなわちヒトに対する発がん性があるとされている。もうひとつはマンガン化合物による健康影響だ。酸化マンガン(MnO)は神経機能障害を、三酸化二マンガン(Mn2O3)は神経機能障害および呼吸器系障害を引き起こすとされる。

このマンガンの神経影響が、後述する健康診断の項目に直結している。一次健診でパーキンソン症候群様症状の有無を診るのは、この背景があるからだ。なお、本ページはリーフレット記載の範囲にとどめる。疾病リスクの独自解釈や、記載にない数値の追加はしない。

規制の時系列——2020公布から2024作業主任者新設まで

溶接ヒュームの規制は、一度の改正で完結したものではなく、段階的に効いてきた。

  • 2020年4月22日 公布:労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令(令和2年政令第148号)と、特定化学物質障害予防規則等の一部を改正する省令(令和2年厚生労働省令第89号)が公布された。
  • 2021年4月1日 適用:改正が施行・適用され、金属アーク溶接等作業で発生する溶接ヒュームが特化則の対象になった。濃度の測定方法は告示(令和2年厚生労働省告示第286号「金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場に係る溶接ヒュームの濃度の測定の方法等」)で定められた。
  • 2022年4月1日 措置全般の施行(経過措置):現に継続して作業を行っている屋内作業場については、2022年3月31日までに溶接ヒューム濃度の測定を行うこととされた。
  • 2023年4月1日 フィットテストの実施:面体を有する呼吸用保護具のフィットテストが施行された。
  • 2024年1月1日 作業主任者の新設:作業主任者関係の改正省令(令和5年厚生労働省令第66号)の流れで、金属アーク溶接等作業主任者(限定技能講習)が新設された。詳細は金属アーク溶接等作業主任者のページで扱う。

この流れを押さえると、換気・測定・保護具・健診・作業主任者という各義務が、なぜこの順序で整ってきたかが見える。

事業者の義務——屋内・継続作業場を主軸に

継続して行う屋内作業場について、特化則が事業者に課す主な義務を整理する。以下は屋内版のリーフレットに基づく。屋外作業場は義務の範囲が異なるため、末尾の屋外版リーフレットを参照すること。

換気:全体換気装置による換気、またはこれと同等以上の措置(プッシュプル型換気装置・局所排気装置を含む)を講じる(特化則第38条の21第1項)。換気装置は、作業主任者が1月を超えない期間ごとに点検する。

濃度の測定:溶接ヒューム濃度の個人ばく露測定を行う(告示第286号)。測定は労働者の身体に装着する試料採取機器を用い、呼吸域・面体の内側で行う。均等ばく露作業ごとに2人以上について、作業に従事する全時間で測定する。測定結果がマンガンとして0.05mg/m³以上等の場合は、換気風量の増加その他必要な措置を講じ、再測定する。

呼吸用保護具:測定結果に応じて要求防護係数(=C÷0.05)を求め、これを上回る指定防護係数の呼吸用保護具を選択・使用させる。面体を有する呼吸用保護具の場合は、1年以内ごとに1回フィットテストを行う。要求フィットファクタは、全面形が500、半面形が100だ。

記録の保存:測定の記録は、当該作業方法を用いなくなった日から3年間保存する。

作業主任者の選任:特定化学物質作業主任者を選任する(特化則第27・28条)。職務は、作業方法の決定と作業者の指揮、換気装置等の月次点検、保護具の使用状況の監視だ。

清掃:床を毎日1回以上掃除する(水洗等のほか、HEPAフィルター付きの真空掃除機を用いる方法も可)(特化則第38条の21第9項)。

これらに加え、安全衛生教育、不浸透性の床、関係者以外の立入禁止、休憩室、洗浄設備、作業場での喫煙・飲食の禁止などが、リーフレット記載のとおり求められる。個別の事業所・作業が規定に該当するかの判断は、条文と所管の解釈に基づくため、労働基準監督署等で確認するのが確実だ。

働く側が知っておくこと——健康診断と保護具

働く側にとって直接関わるのが、健康診断と呼吸用保護具だ。

特殊健康診断(特化則第39〜42条)は、常時従事する労働者に対し、雇入れ・配置換えの際と、その後6月以内ごとに1回行われる。一次健診の項目は、業務の経歴の調査、作業条件の簡易な調査、パーキンソン症候群様症状の既往歴と有無の検査、握力の測定だ。二次健診では、作業条件の調査、胸部の理学的検査等、神経学的検査に加え、医師が必要と認める場合に尿中等のマンガン量の測定が行われる。個人票は5年間保存され、結果報告書(特化則様式第3号)が労働基準監督署長に提出される。

これとは別に、じん肺健康診断(じん肺法第7〜9条の2)も必要になる。溶接ヒュームは粉じんでもあるため、この2系統の健診がかかる。

保護具については、事業者が測定結果に応じた呼吸用保護具を選定・使用させる。面体を有するタイプは、顔と面体の密着が確保できているかを1年以内ごとに1回フィットテストで確認する。要求フィットファクタは全面形500・半面形100で、この値を満たすことがフィットの条件になる。

健診の頻度・項目や保護具の詳細は、溶接ヒューム クラスタの個別ページで順次深掘りしていく。

作業主任者との関係——ヒューム対策の指揮者

溶接ヒューム対策を現場で回す要が、作業主任者だ。継続して行う屋内作業場では特定化学物質作業主任者を選任し、作業方法の決定と指揮、換気装置の月次点検、保護具の使用状況の監視を担わせる。

この作業主任者を選任するための資格が、2024年1月1日に新設された金属アーク溶接等作業主任者(限定技能講習)だ。溶接ヒュームが特化物になり、選任義務が生じた流れを受けて整えられた資格で、講習の中身や費用、従来の特化物技能講習との違いは個別ページで扱っている。

溶接に関わる資格は、作業者・作業主任者・管理者という役割で層が分かれている。溶接ヒューム対策の作業主任者は管理・指揮の層にあたり、アーク溶接の資格のような作業者の資格とは役割が違う。資格の全体像は溶接の資格のピラーで確認できる。

出典・最終確認日

  • 化学物質による健康障害防止対策(溶接ヒュームに関する改正・特定化学物質障害予防規則等)|厚生労働省|https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000099121_00001.html |参照2026-07-23
  • 金属アーク溶接等作業を行う事業者の皆さまへ(屋内作業場向けリーフレット)|厚生労働省|https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/000746531.pdf |参照2026-07-23
  • 金属アーク溶接等作業を行う事業者の皆さまへ(屋外作業場向けリーフレット)|厚生労働省|https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/000735573.pdf |参照2026-07-23
  • 溶接ヒュームに関する解釈通達(基安化発0115第1号・令和3年1月15日)|厚生労働省|https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/000725760.pdf |参照2026-07-23
  • 改正特定化学物質障害予防規則に関するQ&A|厚生労働省|https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/000727559.pdf |参照2026-07-23
  • 集計方法: 定義・有害性・義務内容・数値・時系列は上記の厚生労働省一次資料(改正ページ・屋内版リーフレット・解釈通達)に記載の範囲のみを転記した。屋外作業場の義務詳細は本ページでは断定せず屋外版リーフレットへ委ねた。数値・条文番号はリーフレット記載どおりで、独自の推計・補完は行っていない。
  • 最終確認日(lastVerified): 2026-07-23 集計:MONOSCOPE編集部