ダイカスト金型は設計の段階で溶湯の流れと凝固を決める。型の分割、湯口・押湯の配置、抜き勾配、入れ子の構造が寸法精度と量産性を左右する。
ダイカスト金型で最初に詰まるのは分割面と抜き勾配の決め方だ
ダイカスト金型の設計で失敗が多いのは、製品形状をそのまま型に落とそうとする段階であり、型を開いたときに製品が抜けない、キャビティの隅まで湯が回らない、押出しピンの跡が機能面に残るといった問題は、分割面と抜き勾配の決め方に原因がある場合が多い。教科書では「製品の最大断面で型を分割する」と説明されるが、実際の製品は複雑な曲面や側面の穴を持つため、分割面の選び方には複数の候補があり、どれを選ぶかで型の製作コストと量産時の不良率が大きく変わる。
ダイカストは金属を溶かして圧力をかけて金型に注入する鋳造法であり、型は何千回、何万回と繰り返し使うため、型を開閉する方向、製品を押し出す方向、湯口から製品に溶湯が流れ込む経路、凝固の順序までを設計段階で決めておかなければ、後工程で大幅な手戻りが発生しやすく、試作を重ねても根本原因に戻れないという回り道につながりやすい。型の設計は製品図面を受け取った段階から始まる。
型の設計に必要な前提条件と設備
製品図面と成形条件の確認
型の設計を始める前に、製品図面、材質、必要な寸法公差、表面粗さ、月産数量を確認する。ダイカストで使う材質はアルミニウム合金、亜鉛合金、マグネシウム合金が中心であり、それぞれ溶湯温度と凝固収縮率が異なるため、同じ形状でも型寸法や湯流れの考え方は同一にならない。アルミニウム合金ダイカスト材はJIS H 5302に規定があり、ADC12(Al-Si-Cu系)が最も多く使われる。亜鉛合金はZDC2(Zn-Al系)、マグネシウム合金はMDC1(Mg-Al-Zn系)がそれぞれの代表的な材料記号となっている。
寸法公差はJIS B 0405(普通公差)やJIS B 0419(鋳造品の寸法公差)を基準にするが、ダイカストの実力値はこれより厳しく、厚さ方向で±0.1mm、長さ方向で±0.2mm程度に収まる製品が多い一方で、この数値は型の精度、射出圧力、溶湯温度、型温度の管理状態に依存するため、型の設計では公差の中心値を狙った寸法ではなく、凝固収縮と型の摩耗を見込んだ寸法を入れる考え方が欠かせない。
型材の選定と熱処理
ダイカスト金型の材料はJIS G 4404(合金工具鋼鋼材)のSKD61(Cr-Mo-V系熱間工具鋼)が標準だ。高温の溶湯に繰り返しさらされるため、焼入れ焼戻しを行い硬さHRC 45〜50に調整する。型の寿命は数万ショットから十数万ショット程度であり、湯口周辺や製品の角部など溶湯の流速が速い部分から摩耗が進むため、表面処理の有無は寿命だけでなく補修頻度にも影響する。型の表面には窒化処理や PVD コーティングを施して耐摩耗性を高める場合もある。
だが、コーティングの膜厚が厚すぎると剥離の原因になるため、用途に応じた選択にとどまらず、補修方法との整合まで見ておかないと、初期寿命は伸びても補修段階で扱いにくくなるという別の問題が表面化しやすい。
設計に使う CAD と解析ソフト
型の設計には3次元CADを使い、製品形状から型割り面、キャビティ、コア、入れ子、湯口、押湯、冷却水路、押出しピンの配置を決める。型の構造が決まった段階で、湯流れ解析ソフトを使って溶湯の充填状態と凝固順序をシミュレーションする。解析では湯口の位置と太さ、射出速度、型温度を変えながら、巻き込み欠陥(エアートラップ)や引け巣の出やすい箇所を確認し、その結果をもとに湯口の位置や押湯の大きさを修正して型の製作図を完成させる流れとなっている。
Step 1: 型の分割面を決める
製品を取り出す方向を決める
型の分割面は、型を開いたときに製品が固定型側または可動型側のどちらかに残り、押出しピンで製品を押し出せる面で決める。分割面の候補は製品の最大投影面積を持つ断面だが、製品に側面の穴やアンダーカットがある場合は、スライドコアや傾斜ピンを使って型を開く方向とは別の方向に入れ子を抜く構造を追加する必要があり、この判断が後の型構造全体の複雑さを左右する。
分割面の位置は製品の外観面と機能面に影響する。分割面には必ずパーティングライン(PL)が残る。その部分にはバリが出やすい。外観面や嵌合面にパーティングラインがかからないように分割面を選ぶのが原則だが、分割面を製品の中央ではなく端に寄せると、型の剛性が左右で異なり、射出圧力で型が開く方向にずれる型開き不良が起きやすくなるため、見た目の都合だけでなく型締時の荷重バランスまで含めて位置を決めることになる。
抜き勾配を確保する
型から製品を抜くには、型の開閉方向に沿って抜き勾配を付ける。抜き勾配は1度から3度程度が一般的だが、製品の高さが低い場合や表面にシボ加工を施す場合はより大きな勾配が必要になり、見た目の寸法変化を嫌って勾配を削ると離型抵抗が増すため、外観と成形性の両立を図る場面では単純な寸法優先では収まらない。
勾配が不足すると、製品を押し出す際に型の側面と擦れて表面に傷が入る。製品が変形する。型が摩耗する。こうした不具合が連鎖しやすい。
製品図面に抜き勾配が指定されていない場合は、型の設計者が図面を発行した設計部門に勾配の追加を要求するか、公差の範囲内で勾配を付けた型を製作する。勾配の方向は型を開く方向に対して外側に開く向きにする。内側に閉じる勾配を付けると製品が型から抜けなくなる。
Step 2: 湯口と押湯の配置を決める
湯口の位置と太さ
湯口は溶湯を型に注入する入口で、スプルー、ランナー、ゲートの3つの部分からなる。スプルーは射出スリーブから型に溶湯を導く円錐形の通路であり、ランナーは複数のキャビティに溶湯を分配する通路、ゲートは製品に直接つながる細い通路であるため、各部の役割を分けて考えないと流れの偏りを見落としやすい。ゲートの位置は製品の肉厚が厚い部分に配置し、溶湯が製品全体に行き渡る経路を確保する。
ゲートの太さは製品の重量と肉厚に応じて決める。ゲートが細すぎると湯回り不良が起きる。太すぎるとゲートの切断跡が大きくなり後加工が必要になる。ゲートの断面積は製品の最大断面積に対して一定の比率を目安に設定する考え方があるが、製品の形状や材質によって調整するため、数値だけで決めず、湯流れと切断性の両面から見直す視点が残る。
押湯の配置と大きさ
ダイカストでは射出圧力が高いため、砂型鋳造のような大きな押湯を設ける必要は少ないが、肉厚差が大きい製品では凝固の順序を制御するために押湯を配置する。押湯は製品の最も遅く固まる部分に配置し、凝固収縮で不足する溶湯を補う。押湯の位置を間違えると、製品内部に引け巣が残る。
押湯の大きさは製品の肉厚部分の体積の1.5倍から2倍程度に設定する。押湯は製品と一体で鋳造され、製品を型から取り出した後に切断して除去するため、押湯の位置は凝固補給だけでなく切断性や後加工性まで含めて決める必要があり、切断面を後加工で仕上げる前提まで見込むと、単に厚肉部へ近づければよいという話ではなくなる。
そのため、押湯は加工しやすい場所に配置する。
Step 3: 冷却水路と入れ子の配置を決める
冷却水路の設計
ダイカスト金型には冷却水を通す穴を設け、型温度を一定に保つ。型温度が高すぎると凝固時間が長くなり生産性が落ちる。一方で、型温度が低すぎると湯回り不良が起きるため、冷却水路は単に冷やせばよい設備ではなく、凝固の進み方を整えるための設計要素として扱う必要がある。冷却水路は製品のキャビティに沿って配置し、製品全体が均一に冷えるようにする。
冷却水路の直径は10mmから20mm程度で、キャビティ表面から15mmから30mm程度の距離に配置する。冷却水路が近すぎると型の表面にヒートクラック(熱亀裂)が入る。遠すぎると冷却効果が落ちる。入口と出口は型の外側に設け、型を閉じた状態で水が流れるように配管するが、配管の取り回しが保守性に影響するため、交換や清掃のしやすさまで含めて配置を詰めないと、温度制御は成立しても運用で扱いにくい型になりやすい。
入れ子の構造
製品に凹凸や穴がある部分は、型本体とは別の部品(入れ子)を組み込んで形状を作る。入れ子は摩耗したときに交換できるようにし、型本体より硬い材料を使う場合もある。入れ子の固定方法はボルト止めが一般的だが、入れ子の位置精度を出すために嵌合部にテーパーやキーを設ける構造とすることが多く、交換性と位置再現性の両立が設計上の論点となる。
入れ子の冷却は型本体の冷却水路から分岐させるか、入れ子専用の冷却穴を設ける。入れ子の温度が型本体と大きく異なると、凝固の順序が乱れて引け巣が出やすくなるため、部分的な冷え過ぎや冷え不足を避ける配慮が欠かせない。
Step 4: 押出し機構とスライドコアを設計する
押出しピンの配置
製品を型から取り出すには、可動型側に押出しピン(エジェクターピン)を配置し、型が開いた後にピンで製品を押し出す。押出しピンの位置は製品の剛性が高い部分に配置し、製品が変形しないようにする。ピンの本数と配置は製品の形状と重量に応じて決めるが、離型抵抗の偏りまで見ないと、十分な本数でも押し出し荷重が一部に集中する。
押出しピンの直径は3mmから10mm程度で、ピンの先端は製品の表面と同じ高さに仕上げる。ピンの跡は製品の表面に残るため、外観面や嵌合面には配置しない。ピンの配置が偏ると、製品が斜めに押し出されて型やピンが破損する原因になるため、見た目の都合だけで位置を決めると、離型時の荷重経路に無理が生じやすい。
スライドコアの設計
製品に側面の穴やアンダーカットがある場合は、スライドコアを使って型を開く方向とは別の方向に入れ子を抜く。スライドコアは型が開くときに斜めのカム溝に沿って横方向にスライドする機構であり、製品が型から抜けた後に元の位置に戻るため、タイミングのずれや摺動部の摩耗は型の安定動作に直結する。
スライドコアの動作角度は型の開閉方向に対して15度から30度程度で、スライド量は製品のアンダーカットの深さに対して10mm以上の余裕を持たせる。スライドコアの重量が大きい場合は、油圧シリンダーやエアシリンダーで動作させる。
よくある失敗と対処法
湯回り不良と巻き込み欠陥
ゲートの位置が製品の端に寄りすぎると、溶湯が製品全体に回る前に凝固が始まり、製品の一部に湯が回らない湯回り不良が起きる。ゲートを製品の中央寄りに配置し、溶湯の流れが製品全体に均等に広がる経路を確保することが基本であり、肉厚差が大きい形状では流れの偏りを前提に修正を重ねる場面も少なくない。
溶湯の流速が速すぎると、先に充填された溶湯の表面が冷えて膜を作り、後から流れ込んだ溶湯がその膜を巻き込んで内部に空気が残る巻き込み欠陥(エアートラップ)が発生する。ゲートの断面積を広げて流速を下げるか、オーバーフローを設けて最初に充填される溶湯と空気を逃がす必要があり、流速だけでなく逃げ場の有無も同時に見なければ、対策が片手落ちになりやすい。
型開き不良とバリの発生
射出圧力が高いと、型が閉じる力(型締力)が不足して型が開く方向にずれ、分割面に隙間ができてバリが発生する。型締力は射出圧力と製品の投影面積の積より大きくする必要がある。型の剛性が不足している場合は、型の厚さを増すか、型を支える補強リブを追加する。
分割面の精度が出ていないと、型を閉じたときに隙間が残りバリが出る。型の製作時に分割面をラップ仕上げし、面の平面度を0.01mm以内に収める。型を長期間使うと分割面が摩耗してバリが出やすくなるため、定期的に分割面を研磨する必要があり、初期精度だけでなく維持管理のしやすさも型寿命に影響する。
押出しピンの折れと製品の変形
押出しピンの本数が少ないと、製品を押し出すときにピンに集中する荷重が大きくなりピンが折れる、または製品が変形する。ピンの配置は製品の重心を中心に対称に配置し、荷重を分散させる。ピンの直径が細すぎる場合は、ピンの本数を増やすか直径を太くする。
製品がピンから抜けにくい場合は、ピンの周囲に抜き勾配を付けるか、ピンの先端に離型剤を塗布する。ピンの周囲に製品が焼き付いている場合は、型温度が高すぎるか、ピンの表面粗さが粗いことが原因であり、押出し力だけを疑うと対策がずれることがある。
安全上の注意点
型の組立と試運転時の災害防止
ダイカスト金型は重量が数百kgから数トンに及ぶため、型を機械に取り付ける作業にはクレーンを使う。型を吊り上げるときは、型の重心位置を確認し、吊り具が外れないように玉掛けワイヤーを確実に固定する。型の下に人が入らないようにし、型を機械に固定するまでは吊り具を外さないことが前提であり、段取りの省略が重大災害に直結しやすい。
型を機械に取り付けた後、試運転で型の開閉動作、スライドコアの動作、押出しピンの動作を確認する。試運転中は型の内部に手を入れず、動作に異常がないかを目視で確認する。型の動作速度は最初は低速にし、問題がないことを確認してから通常速度に上げる。
溶湯の取扱いと飛散防止
ダイカストでは溶湯を高圧で射出するため、型の合わせ面や湯口周辺から溶湯が飛散する危険がある。作業者は保護眼鏡、皮手袋、難燃性の作業服を着用し、顔や手に溶湯が飛んでこないように機械の正面に立たないことが基本であり、防護具の着用と立ち位置の管理は切り分けずに扱うべき内容である。
型の温度が低いまま溶湯を射出すると、溶湯が急激に冷えて爆発的に蒸発し、溶湯が飛散する水蒸気爆発が起きる場合がある。型の予熱は十分に行い、型温度が安定してから生産を開始する。型に水分が残っている場合も同様の危険があるため、型の表面を乾いた布で拭き、水分を完全に除去する。
次にやるべきこと——型の試作と量産への移行
型の設計が完了したら、型を製作し試作品を成形する。試作では製品の寸法、表面粗さ、内部欠陥を確認し、設計通りの品質が出ているかを検証する。寸法が公差から外れている場合は、型の寸法を修正するか、射出条件(射出速度、射出圧力、型温度)を調整する。内部欠陥が出ている場合は、湯流れ解析ソフトで再度シミュレーションし、湯口や押湯の位置を見直す。
試作で問題がなければ、量産に移行する。量産では型の摩耗と劣化を監視し、製品の寸法が公差内に収まっているかを定期的に測定する。型の寿命は湯口周辺と製品の角部から先に来るため、摩耗が進んだ部分は入れ子を交換するか、肉盛り溶接で補修する。型の分割面は定期的に清掃し、バリが出始めたら研磨して面の精度を回復させる。
型の保守記録は成形条件と製品の品質データと合わせて記録し、次回の型設計や条件設定に活かす必要があり、試作時の判断と量産時の補修履歴を切り離さずに蓄積することが、同種不良の再発防止に直結する。ダイカスト金型は設計の段階で製品の品質と量産性の大半が決まるため、型の構造を決める順序と判断基準を理解し、試作と量産を通じて得られた知見を次の型に反映させる流れが、設計精度の底上げにつながっていく。






